今回の「第九」で注目すべきなのは第4楽章での「歓喜の歌」がウクライナ語で歌われているということ。かつてバーンスタインがベルリンの壁崩壊後に演奏したベートーヴェンの「第九」で「歓喜(フロイデ)」が「フライハイト」と変更して歌い上げられたように今回も歌詞に変更が行われている。
・ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」
録音:2023年(ライヴ)
・・・全体的なアプローチとしては近年演奏されている室内楽やピリオド楽器による古楽的な演奏スタイルだが、第2楽章のリピートが省略されていたりそこまでパワー多めの固いサウンドを効かせた演奏とはなっていない。オーケストラ全体的な音色や響きの充実さとしては往年の時代による豊かな音色からなるダイナミクス変化がたっぷりと演奏されている。テンポの緩急に関しても鋭さがあるわけではなく比較的に緩やかで美しく演奏されている。ダイナミック・レンジの幅広さを生かした空間的にも美しさ溢れる演奏であることは間違いない。第4楽章の「歓喜の歌」だが、聴き始めは確かに慣れないかもしれない。しかし聴き進めていくと新しい解釈のようにも聴こえるためこの試みは非常に面白いものだったというようにも感じることができた。歌い方に関しても普段聴き慣れた「歓喜の歌」と明らかに違う歌い方がされているため、その点としても興味がわく。いずれ各国の言葉によって「第九」が歌われていくのだろう。そうなった時に日本語で聴く「歓喜の歌」がどのようになるのか少し気になるところもある。
攻撃的な音楽よりも慈愛に包み込まれるような美しさ溢れる音楽こそ、今の我々に必要な音楽なのであると今回の「第九」を聴いて思い出したようにも思える。ロシアのウクライナ侵攻以降世界的に不安定になっているし、日本の情勢に関しても不安定になっている。今こそウィルソン&ウクライナ・フリーダム・オーケストラによるベートーヴェンの「第九」を聴く時である。