小澤征爾&サイトウ・キネンによるベルリオーズの「幻想交響曲」は現時点で3種類のCDが発売されている。今回のカーネギー・ホールでのニューヨーク・ライヴは2種類目にあたる。とても療養生活をあけた後とは思えないような熱量からなる圧倒的な物語の世界観は聴いているだけでその場にいるかのような臨場感を味わえる仕上がりとなっている。
・ベルリオーズ:幻想交響曲
録音:2010年12月15日(ライヴ)
第1楽章・・・テンポはそれほど遅くなく緩やかなアプローチと共に描かれている。バランスの良さと各楽器による音色の良さを堪能するには充分と言って良い第1楽章となっており、木管楽器と弦楽器によって先導される色彩的かつ透き通るかのような美しさ溢れる演奏は何回聴いても飽きることはない。ライトモツィーフに関してもはかなさと妖艶なる魅力の両方を持ち合わせた甘さのある演奏を聴くことができるので、たっぷりとした演奏を余すことなく味わえるのは間違いない。
第2楽章・・・弦楽器と木管楽器によって作り出される優雅で美しさの溢れる演奏を余すことなく味わえるようになっている第2楽章。テンポの緩急に関しても緩やかでスリリングさはなくスタンダードにも聴こえるかもしれないが、細部にわたって細かく演奏された卓越なるアンサンブルもあるため聴いているだけで心がスッキリするかのような演奏を楽しむことができるようになっている。
第3楽章・・・不穏な空気が張り詰めるかなで演奏される情景的かつはかなさが全面的に押し出された木管楽器と弦楽器による音色は、この後の楽章を考えながら聴くと絶妙な演奏を聴くことのできる中間的な演奏となっている印象が強い。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることによって空間的にも広々としており、それによって奏でられる演奏はどこか印象深いものを感じ取ることができるだろうか。これぞライヴならではと言える演奏を聴くことができる。
第4楽章・・・分厚いスケールと共に圧倒的な音圧を奏でている金管楽器、打楽器が奏でる打撃には深みと同時に重々しさを感じることのできる演奏が行われているためその破壊力からなる印象が強い。リピートはなしだが迫力を充分に味わうことができるようになっているので、聴きごたえとしては大いにある名演と言えるだろう。なお、バスドラムの打撃からなる深みが凄まじいものとなっている。
第5楽章・・・バスドラムの存在感は非常に大きなものとなっており聴いているだけで鳥肌が立つほど衝撃を味わうことができるようになっている。途中に鳴らされる鐘に関してもくもりのない綺麗な音となっているため、混沌とした世界観の中に一つの調和的な響きを聴くことができるだろう。それ以外としても荒々しさはないが、群としての大きな存在感を味わうことのできる金管楽器や鋭さからなる研ぎ澄まされた感覚によって演奏されている弦楽器の音色などまさに物語の終わりとしてふさわしいと言えるサウンドを聴くことができる。
「Apple Music Classical」では小澤さんの「幻想交響曲」を何種類か聴くことができる。それはサイトウ・キネンによる演奏以外としてボストン交響楽団による演奏とサイトウ・キネンとの2014年ライヴが当てはまる。その他の録音についてはいずれまた取り上げたいところ。
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