アバドによるチャイコフスキー交響曲全集はシカゴ交響楽団との演奏が非常に有名だが、今回のロンドン響との交響曲第5番はそれよりも前に録音された演奏である。ロンドン響とは数多くの名盤を残したが、今回の交響曲第5番も間違いなくそのうちの一つである。最近ではUHQCDとして発売もされた。
・チャイコフスキー:交響曲第5番
録音:1970年12月
第1楽章・・・メリハリの聴いた美しいサウンドが功を奏する形となっている今回の演奏。弦楽器の音色が特に美しく、優美である。テンポ設定に関しても基本一定で演奏されるわけではなく、常に変化して進められていくこともあってどんどんその世界観へと引きずり込まれていく。ダイナミック・レンジの幅広さが増している印象で、ダイナミクス変化の差も明確かつわかりやすく付けられているのも特徴的であると言える。
第2楽章・・・第1楽章での優美さ溢れる美しさとはまた違うアプローチからなる美しさが貫かれている今回の第2楽章。濃厚かつたっぷりと演奏されたホルンソロがなんとも言えないほどに印象的な演奏となっており、弦楽器による美しいヴェールもあり、木管楽器による芯のある美しい音色も功を奏している。ゆったりとした演奏ながらに強い信念と言おうか、爆発的なエネルギーを体感できるようになっているのは間違いない。
第3楽章・・・明確な軸のある美しい音色によって演奏される舞踏会のような空間。オーケストラ全体が奏でている演奏からして美しさが溢れ出ていることもあって非常に聴きごたえのある第3楽章となっている。この楽章があるからこそこの後の第4楽章をより一層楽しめるようなアプローチが大変多く盛り込まれているというもので、弦楽器を中心として他の楽器にも大きな影響を与えているということがよくわかる。
第4楽章・・・活発かつ全てを巻き込んで進められていくまさに第4楽章としてふさわしい演奏である。テンポの緩急に関しても明確なアプローチによって演奏されている。やや速めのテンポで演奏されることもあって、それによって弦楽器の柔軟性のあるサウンドをたっぷりと味わえるようになっているのは間違いない。金管楽器、特にトランペットの存在感も抜群で、キメどころを逃すことない圧巻の演奏は聴いていて非常に清々しい感覚を覚える。