飯守さんと東京シティ・フィルによるブルックナーは、交響曲第3番「ワーグナー」、第4番「ロマンティック」、第6番、第7番がすでに一括りとなって発売されているが、ここに今回交響曲第8番が加わる。奇しくも昨年8月15日に亡くなってしまったが、飯守さんが残した功績は多くのクラシックファンのみならず日本におけるクラシック音楽にとっても大きな功績となったはずだ。
・ブルックナー:交響曲第8番
録音:2023年4月7日(ライヴ)
第1楽章・・・比較的に前向きで踏み込む力や明確なアタックであったり、細部にまで細かく作り込まれたダイナミクス変化は非常に魅力的な演奏と言える。最晩年による演奏とはいえ、遅く重々しいテンポで演奏されるわけではないため普段よりも演奏時間は短く感じるかもしれない。響きよりも芯のあるハッキリとした演奏となっているため、やや固さを感じることのできるサウンドとなっていることもあって若干引き締められた演奏のようにも聴こえるだろう。
第2楽章・・・スケルツォ楽章ではあるが、他の同曲録音と比べてゆったりとしていてなおかつ伸びかな印象の強い演奏である。各楽器ごとに奏でられる美しい音色と響きからは、想像していた以上のスケールと美しい世界観を演奏から聴くことができる。テンポチェンジが明確になった構成となっていることもあり、まったりとしている演奏ではあるが響きに負けすぎていないため聴きやすさは変わっていない。
第3楽章・・・透明度の高い伸びやかな音色と響きによって演奏を行っているが、一歩一歩踏み締めていく確かな力強さを演奏から通して長いスケールから聴くことができる。弦楽器による美しい音色が功を奏する形となっているため、最初から最後まで統一されたそのサウンドを存分に味わうことができるようになっている。通常CD盤ながら驚かされるダイナミック・レンジの幅広さであり、ここまで透明度の高い演奏も中々ないように思える。
第4楽章・・・意外にもストイックさが感じられるような快活なテンポからなるエネルギッシュな演奏というように感じられる演奏となっており、第1楽章から第3楽章までに溜めてきたエネルギーをここで放出したかのような印象である。やや遅めではあるものの、テンポの緩急に関しても明確になっており、壮大なるスケールからなる素晴らしい圧巻の演奏を聴くことができるようになっている。東京シティ・フィルによるサウンドも一貫性のある演奏が行われているため、オーケストラ全体として統一感抜群の演奏を聴くことができるようになっている。
飯守さんのブルックナー交響曲第8番を聴き終えた今、改めて以前取り上げた交響曲集を聴き直したいと思えた。普段聴き慣れたこの曲だからこそ違うアプローチが盛り込まれた演奏というのは非常に興味深い演奏であることは間違いないだろうし、今後多くの指揮者たちによっての新しいブルックナー像が出来上がっていくと思われる。それを2024年に何種類発見できるようになるのか、今年始まったばかりだが楽しみで仕方ない。
https://tower.jp/item/6232602/ブルックナー:交響曲-第8番