第1536回「アイヒホルンによるブルックナー交響曲選集」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日6月29日はクルト・アイヒホルンの命日です。今年で没後29年となります。来年で没後30年となりますが、本日ご紹介していくのは2019年12月にタワーレコード限定で復刻されたリンツ・ブルックナー管弦楽団によるブルックナーの交響曲選集です。「HRカッティング」を採用したことによる音質の改善も素晴らしく、全集ではないとしても聴く価値のある交響曲選集であると言えるでしょう。


「クルト・アイヒホルン指揮/リンツ・ブルックナー管弦楽団」

ブルックナー作曲:
交響曲第2番 ハ短調(ウィリアム・キャラガン校訂による1872年稿)

交響曲第2番 ハ短調(ウィリアム・キャラガン校訂による1873年稿)

交響曲第5番 変ロ長調(ノヴァーク校訂版)

交響曲第6番 イ長調(ノヴァーク校訂版)

交響曲第7番 ホ長調(ノヴァーク校訂版)

交響曲第8番 ハ短調(ノヴァーク校訂1890年版)

交響曲第9番 ニ短調(サマーレ&マッツーカ補筆版)



 アイヒホルンが「カメラータ」にてリンツ・ブルックナー管弦楽団と録音したブルックナーの交響曲は第2番、第5番、第6番、第7番、第8番、第9番の計6曲。第6番を最後にアイヒホルンが亡くなったため全集となることはなかったが、残りの交響曲を同オーケストラにてマルティン・ジークハルトが第1番、第3番、第4番を、テオドール・グシュルバウアーが第0番を録音して交響曲全集として完成し、CDが発売されている。今回の交響曲選集はアイヒホルンが指揮したブルックナーのみを収録した貴重な記録である。


・ブルックナー:交響曲第2番(キャラガン校訂版1872年稿)

録音:1991年3月25〜28日(世界初録音)

・・・この後に収録されている1873年稿と比べてみると違いがある。一番わかりやすい違いは第2楽章と第3楽章の演奏する順番が違っているということである。今回の1872年稿では、第2楽章にスケルツォ楽章、第3楽章にアダージョ楽章が置かれている。1873年稿ではこれが逆となり、第2楽章にアダージョ楽章、第3楽章にはスケルツォ楽章が置かれている。マーラーの交響曲などでいえばそれほど違和感はないかもしれないが、ブルックナーの交響曲でスケルツォ楽章が第2楽章に置かれるのは若干慣れないところがあるかもしれない。とは言っても未完成となった交響曲第9番の第2楽章はスケルツォ楽章となっているため、多少のインパクトを味わえるのは間違いないだろう。演奏として、テンポの緩急が明確にわかりやすく作り込まれているということもあるため、細かいダイナミクス変化を味わえるようになっている。この後に収録されている1873年稿と比べるとさらに引き締められたサウンドとなっている印象を強く受ける演奏となっているかもしれない。


・交響曲第2番(キャラガン校訂版1873年稿)

録音:1991年3月25〜28日(世界初録音)

・・・1872年稿と比べても違いがある1873年稿。先ほども述べたが、第2楽章アダージョ楽章と第3楽章スケルツォ楽章が1872年稿と1873年稿それぞれでは演奏順が逆になっている。今回は「アダージョ→スケルツォ」による演奏となっている。演奏として、全体的に引き締められたやや筋肉質なアプローチがされているため、抜群のインパクトと音質の良さによって濃厚さや壮大なブルックナーの交響曲としての姿とはまた別の姿を楽しむことができるようになっている。通常CD盤ながらダイナミック・レンジの幅広さが増していることによって、細かいダイナミクス変化はもちろんのこと各楽器が持ち合わせている歯切れの良い音が功を奏する形で演奏が行われている。

・交響曲第5番(ノヴァーク校訂版)
録音:1993年6月29日〜7月3日
・・・長大な交響曲かつ難解さが求められる交響曲の部類に組み込まれている交響曲第5番。テンポの緩急があるものの、ゆったりと重々しさすら感じる演奏となっており、テンポが落ちた際はオーケストラ全体が一歩一歩明確に演奏を行っている。金管楽器によるキレのあるサウンドや弦楽器の統一されたサウンドが功を奏しており、オーケストラ全体としても一貫性のある演奏を聴くことができるようになっていることもあって非常に聴きごたえのある演奏を聴くことができる。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることによる壮大なスケールに関しても聴きごたえのある演奏となっているため、最初から最後まで楽しむことができるのは間違いない。

・交響曲第6番(ノヴァーク校訂版)
録音:1994年3月28〜31日
・・・明確かつ明瞭で透明度の高い音色や響きを聴くことができるようになっている交響曲第6番。インパクトやパワーは不足しているように感じられるため、確かに人気では劣るかもしれないが全楽章通して一貫性のある美しさが貫かれてる曲として記憶している。今回の演奏では第2番のように引き締められた筋肉質な演奏ではなく、テンポの緩急もある中で豊かさや穏やかさが重視された伸びやかで非常に美しいサウンドを聴くことができるようになっている。金管楽器の音色に関しても慈愛を感じるような優しさに包まれた強さがない音で奏でられていることもあって非常に聴きやすい。また、ダイナミック・レンジの幅広さが増していることもあって濃厚さや壮大なるスケールをたっぷりと味わえるのも強みと言えるだろう。

・交響曲第7番(ノヴァーク校訂版)
録音:1990年4月9〜12日
・・・やや重心が低く遅めな演奏ながらも細かいテンポの緩急によって、常に遅く重々しい演奏ではないということを感じさせてくれるような交響曲第7番となっている。輝かしいトランペットや音色や美しく深みのあるホルンとワグナー・チューバ、まとまりのある弦楽器の研ぎ澄まされた音と美しい演奏が最高に美しいバランスを作り上げている。第2楽章の奥深いサウンドと感動的で美しいスケールは非常に素晴らしく、壮大的かつダイナミック・レンジの幅広さが増していることによる素晴らしい演奏となっている。第3楽章に入った瞬間その余韻はあまりないかもしれないが、切り替えとしてもすぐに変化する形で演奏が行われているため後味はスッキリとしている印象を受ける。

・交響曲第8番(ノヴァーク校訂版1890年稿)
録音:1991年7月1〜4日
・・・ブルックナーの作曲した交響曲の中でも代表的な作品と言っても良い交響曲である第8番。今回の演奏では、普段聴き慣れているようなたっぷりとしていて壮大かつ美しいスケールを味わえるような素晴らしい演奏とは違う演奏スタイルとなっていると言えるだろう。テンポは全楽章共通して比較的に速めの推進力が感じられる演奏となっており、テンポの緩急における差というのも明確な変化が付けられている。特に「緩→急」へと変化する際のテンポの加速というのが凄まじい変化をもたらしている。また、常に前向きというわけではなく第3楽章などでは幅広く演奏している楽章もある。その際たっぷり演奏しているわけではなく、やや早歩き気味に演奏が行われている。また、弦楽器もまとまりがあるサウンドを聴くことができるが、たっぷりとしたスケールを味わえるというよりも引き締められた筋肉質的な印象が強いかもしれない。金管楽器からは圧倒的なまでの音圧、打楽器からは細かいダイナミクス変化と共に強烈な打撃を聴くことができるだろう。

・交響曲第9番(サマーレ&マッツーカ補筆版)
録音:1992年4月13〜15日、1993年2月16〜17日(世界初録音)
・・・普段聴き慣れている交響曲第9番ではなく、今回の録音は世界初録音となったサマーレ&マッツーカによる補筆版である。後に「旧EMI」にてサイモン・ラトルがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と録音を残しているが、今回はアイヒホルンとリンツ・ブルックナー管による演奏で聴くことができる。全4楽章となっていることもあって、演奏時間は交響曲第8番よりも長く、たっぷりとしたスケールによって演奏が展開されており、非常に美しい世界観を描いている。私自身まだこの補筆版はそれほど数を重ねるほど聴いていないため、慣れていないところがあるものの長大な交響曲となって蘇ったブルックナー最後の交響曲を存分に味わえるようになっているのは間違いないと思える。分厚く圧倒的な音圧を持って演奏される金管楽器や重厚的であり、分厚くどっしりとした弦楽器による土台も非常に素晴らしい。まだこの補筆版に関しては慣れていないので、当盤を聴いて少しずつ慣れていきたいところである。

 今回交響曲以外にボーナス・トラックとして、ブルックナーの交響曲第2番1872年稿の一部アイヒホルンによる変更や交響曲第2番の録音風景を収録していたりする。まさにブルックナーの交響曲を楽しむために必須的な選集と言っても良いと思う。そして、これまでに交響曲第2番がここまで注目されたことがあったか?と問いたくなるくらいに今回の交響曲選集のメインは交響曲第2番が優遇されている印象を受けた。もちろん交響曲第9番の補筆版世界初録音というのも魅力的ではあるが、普段あまり演奏されない曲だからこそもつ魅力的なエネルギーは素晴らしい効果を発揮していると言えるかもしれない。この交響曲選集に関しては何度でも聴き続けたい名盤である。