レヴァインはメトロポリタン歌劇場にて長い間指揮をした指揮者であり、2017年に退任した後も演奏を続けていたが2018年性的スキャンダルのために解雇されている。それとしても多くのオペラを演奏し録音も残しているのは間違いなく、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」は今でも人気盤である。
・マーラー:交響曲第1番「巨人」
録音:1974年8月
・・・ロンドン交響楽団による分厚いサウンドからなる圧倒的なスケールは、いつ聴いても飽きることないくらいの感覚を覚える。それによって生み出されるまろやかさであったり濃厚なサウンドは聴いていてマーラーにぴたりと当てはまるサウンドとなっているのは間違いない。今回の演奏に関しては、テンポの緩急も激しくなっており、細かい溜めはそれほど感じられないかもしれないが比較的にぐんぐん進んでいく前向きな一貫性のある演奏を聴くことができるようになっている。まとまりのある弦楽器による分厚く重厚的な土台の上にある骨太な咆哮をあげる金管楽器などどこをとっても芯のある音を聴くことができる。新鮮味はそれほどないかもしれないが、安心することができる抜群の安定感を体感できるようになっているのは申し分ない仕上がりと言えるだろう。
・交響曲第3番
録音:1975年7月
・・・自然であり、濃厚かつまろやかな音色によって奏でられている今回の交響曲第3番。非常に素晴らしい演奏となっている。ダイナミック・レンジの幅広さに関しても通常CD盤ではあるが、比較的にたっぷりと取られていることもあって聴いていて素晴らしい演奏であると感じ取ることができる。特に木管楽器と弦楽器による透き通るように美しい音色を聴くことができる点や、やや骨太で芯のあるたっぷりとしたサウンドで演奏が行われる金管楽器の音色が功を奏する形を取られているのも非常に素晴らしい。各楽章ごとにやや遅めのテンポで演奏されるたっぷりとしたスケールを味わえるのは聴くだけで十二分に満足することができるようになっている。
・交響曲第4番
録音:1974年7月
・・・ポピュラー色の強い交響曲第4番。今回の演奏ではレヴァインによるアプローチも重なってより一層ポップで明るさが目立つ印象を受ける。同時にテンポの緩急からなるダイナミクス変化も加わり、より明確で素晴らしい演奏を聴くことができるようになっているのは素晴らしいと言えるだろう。第4楽章におけるソプラノ歌手との演奏も非常に素晴らしく、優美さや穏やかさと言ったような美しい世界観が展開されているため、「混沌さ」よりも親しみやすさが今回の演奏では特に感じ取ることができる。
・交響曲第5番
録音:1977年1月
・・・マーラーの交響曲の中でも代表的な作品である交響曲第5番。今回の演奏ではたっぷりとした重厚さや濃厚さが重視されているのではなく、金管楽器を筆頭として「パリッ」としたようなサウンドで一貫性が組まれているようにも感じる。同時にトロンボーンをはじめとする中低音によるゴリゴリとした分厚い音圧やホルンの咆哮など各楽器における個性が多く見受けられる。その分木管楽器に関してはやや控えめに感じる。また、細かいダイナミクスやアーティキレーションに関しても違う印象があり、強調されている箇所が多い。曲としても頂点が繰り返しくる瞬間が非常に多い曲のため、テンポの緩急に関しても明確化されている。普段と違う交響曲第5番を聴きたい時にはこの演奏は進んで聴きたくなるようなアプローチが多く盛り込まれているので、注目できる演奏となっている。
・交響曲第6番「悲劇的」
録音:1978年2月
・・・今回の「悲劇的」は濃厚さや骨太さよりも、深みのある音色が非常に優先されているようにも思える。また、第2楽章はスケルツォ楽章、第3楽章はアンダンテ楽章がそれぞれ演奏されるようになっている。通常CD盤ながらダイナミック・レンジの幅広さが大分あるため、音の広がりが申し分ないくらいの大きな衝撃を味わえるようになっているのは非常に素晴らしいと言えるだろう。特に第4楽章冒頭のバストラムの「ズンッ」という深みのある音は思わずハンマーが振り下ろされたような深みのある重厚感を味わうことができた。テンポの緩急も各楽章ごとによって演奏され分けられており、第1楽章と第2楽章は比較的に前向きで推進力と勢いの良さを感じることができ、第3楽章と第4楽章はやや重心が低くなったことによる分厚いスケールと抜群の安定感が功を奏する形を取られている。また、第4楽章で振り下ろされるハンマーに関しては2回となっており、「ズガンッ」という深みよりも明確な威力を聴いていて味わうことができるようなインパクトのある打撃となっていた。
・交響曲第7番「夜の歌」
録音:1980年7月
・・・極めて自然な流れで進められていくこともあって、聴いている感覚としてはそれほど悪い印象はあまり受けなかったようにも思える。可もなく不可もなくという形になるかもしれないが、オーケストラ全体のバランスが非常に良く整われていることもあってスタンダードな仕上がりとなっていたように感じ取ることができた。トランペットの音色が「パリッ」としているためそれが少々気になるところではあるが、この難解とされる「夜の歌」が非常に聴きやすく作り込まれているというのはこの曲における入門編として楽しむことができるのではないかと個人的には思った。
・交響曲第9番
録音:1979年1月
・・・演奏として、たっぷりと幅広く取られた分厚いスケールによって演奏が行われている。それに加えてテンポもやや遅めであり、重厚的なアプローチがされていることによってマーラー最後の交響曲を余すことなく楽しむことができるようになっている。第1楽章〜第2楽章までは比較的にユーモアさや遊び心が見え隠れしていることもあって、どこかポピュラーな音楽を聴いているかのような感覚にもなる。第4楽章になると弦楽器によるまとまりとずっしりとした重々しいサウンドが功を奏する形となり、交響曲第3番第6楽章と並んで美しさからなる感動を味わえるようになっている。
・交響曲第10番
録音:1978年4月、1980年1月
・・・マーラーの交響曲第10番には様々な補筆版が存在しているが、今回の補筆版は一番演奏されるケースの多いクック補筆版が演奏されている(第3稿第1版)。オーケストラ全体の作りとしては非常に厳格的ながら、分厚いスケールとマーラーらしい混沌と美しさが混ざり合った不協和でどこか皮肉にも聴こえる世界観が広がっている。全体を通してもそれほど明るい曲ではないが、重々しくもなければ暗いアプローチで作り込まれていないというのが大きな印象と言えるかもしれない。自然な音楽の流れを最初から最後まで聴くことができるようになっていると言えるだろう。補筆版を初めて聴くときにはこのレヴァイン盤を聴くのも良いかもしれない。
レヴァインによるマーラーは私がマーラーの交響曲CDを集め始めた最初の段階で手に入れており、同じ時期に購入したベルティーニやゲルギエフによる交響曲全集と合わせて聴いた。そして今回5年ぶりに聴くわけだが、レヴァインによるマーラーは5年前に聴いた時ほど悪い印象ではなかったということを述べておきたい。これまであまり積極的に聴いてこなかった選集ではあるのだが、今回改めて聴き直したところ曲によっては驚かされる演奏が多々あった。なんといってもこの選集はそれほど高額ではないということもあって、非常に手に取りやすい。より濃厚かつ分厚いスケールを味わいたい時に聴くのがよいと、個人的に再認識することができる機会となった。
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