この「幻のリスボン・ライヴ」が世に出回ったのはAUDIOR盤がはじめで、長い間正規盤が登場することはなかった。それが2022年3月に「Tobu Recording」からUHQCD盤が発売され大きな話題を呼んだ。そしてこれにとどまることなく、12月にはSACD、今回取り上げるXRCDが「Altus」から発売された。SACDとXRCDに関してはUHQCDと比べても倍以上の値段となっていることもあるのと、後から別フォーマットでの発売という形が賛否両論分かれている。また、SACDに関しては音飛びが起きてしまう不具合もあるようなので注意して聴く必要があるようだ。
・ブルックナー:交響曲第8番
録音:1994年4月23日(ライヴ)
第1楽章・・・重々しく重厚的な始まりで、一歩一歩確実に踏み込んでいく大きな存在感を演奏からは感じることができる。ライヴの臨場感を味わえるような面としてダイナミック・レンジの幅広さが非常に功を奏する形となっており、以前よりも細部まで細かく聴き込みやすくなったようにも思えなくもない。また、オーケストラ全体の透明度の高い音色と響きは申し分ない素晴らしさとなっているが、強いて気になるところとすれば金管楽器のサウンドがUHQCDの時と比べても少々荒さが目立つような印象を受ける。これに関してはUHQCDも聴き比べてみたが、XRCDは全体的にダイナミック・レンジの幅広さに加えて個々の楽器におけるパワーも増し、明確なサウンドが明瞭なものへと聴きやすくなっている。その点UHQCDはパワーよりもオーケストラ全体のバランスやヴェールが統一され、均等となっているので、より美しく聴こえるようになっている。それによって先ほど触れたXRCDの方が荒さが目立つ形に繋がったのである。
第2楽章・・・チェリビダッケ晩年の演奏ということもあってテンポが落ちているわけだが、その中でもこのスケルツォは重厚的なサウンドで変わることなく演奏されている中でスケルツォでは前向きな推進力を感じられるアプローチがされている。トリオではまさにベストなものといって差し支えないくらいに大分たっぷりと丁寧に演奏されているが、これが良い効果を生み出しており、美しいスケールの広がりを感じることができるようになっている。また、UHQCDであったマスターテープの劣化に伴う音飛びだが今回のXRCDではAUDIOR盤同様に音飛びは確認できなかった。
第3楽章・・・演奏時間は33分23秒。UHQCDを聴いた時からこの第3楽章の長さには驚かされたが、これだけ長い時間演奏されていると心が洗い流されるような感覚を覚える。テンポは大分遅くなり、重々しく演奏されているが、それによって壮大かつ幅広いスケールをたっぷりと味わえるようになっているのは非常に素晴らしいと言える。若干弦楽器の音色には研ぎ澄まされた感覚を覚えなくもないが、この第3楽章におけるダイナミック・レンジの幅広さと弦楽器によって奏でられる美しい音色と残響が功を奏する形となり、透き通った明瞭な演奏をより楽しむことができるようになっている。
第4楽章・・・ずっしりと重たい状態での演奏となっていることもあってそれほどテンポの緩急は感じられないかもしれないが、演奏として壮大なるスケールとキレ味のあるサウンドを聴くことができるようになっている点をみてみても弦楽器、金管楽器の音色がいずれもぴたりと当てはまる素晴らしさとなっているのは間違いない。まさに堂々たる風格の感じられる演奏であり、重量級の演奏ではあるが聴き終えた後の達成感は非常に凄まじいものと言えるだろう。
チェリビダッケによるブルックナー、特にミュンヘン・フィルによる演奏は今回のライヴ含めて名盤、名演が多い。今回の「幻のリスボン・ライヴ」は現在までにUHQCD、SACD、XRCDが発売された。SACDは聴いていないがそれぞれによって特性があり、聴きやすさというのも変わってくると思う。個人的には今回のXRCDでは、UHQCDでの復刻の際に欠落した第2楽章の一部分もなく演奏を楽しむことができたのに加えて、ダイナミック・レンジも全体的に増していたため聴きやすかったと感じた。XRCDは2022年を最後に生産終了となったが、他の高音質盤に引けを取らない技術であることには変わりないのでその点には脱帽したいところである。
https://tower.jp/item/5618097/チェリビダッケ、幻のリスボン・ライヴ-%5bXRCD%5d<完全限定生産盤>
