アバドといえばプロコフィエフやムソルグスキー、チャイコフスキー、ストラヴィンスキーなどのロシア音楽を数多く録音している。いずれの曲も今日において多くのクラシックファンに愛される名盤として知られている。今回のプロコフィエフもその一つである。ロンドン響、シカゴ響それぞれのオーケストラの良さを全て出し尽くしたような素晴らしいアプローチとなっている。
プロコフィエフ:「アレクサンドル・ネフスキー」 1979年6月8〜15日録音
・・・ソ連映画「アレクサンドル・ネフスキー」のために作曲した曲を抜粋し、演奏会用のカンタータとして再構成した曲こそ今回の曲である。メゾ・ソプラノと混声合唱がオーケストラに加えられる。
第1曲「モンゴル治下のロシア」
第2曲「アレクサンドル・ネフスキーの歌」
第3曲「プスコフの十字軍」
第4曲「起て、ロシアの人々よ」
第5曲「氷上の戦い」
第6曲「死の原野」
第7曲「アレクサンドルのプスコフ入城」
からなる。インパクトのある強烈な音響は現代音楽の要素を強く含んだものとなっており、曲としてはたんたんと進んでいくが、一曲ずつ非常に強い印象を残していく。ロシア音楽を得意としたアバドによる全身全霊の演奏となっており、ロンドン響全体が奮い立たせられるような大きな衝撃を持って演奏されるその姿は豪快さを通り越して恐怖すら感じられるような音響である。エソテリックのSACDハイブリッド仕様となったことより、ダイナミック・レンジの幅広さがさらに向上しているため、なおのこと金管楽器群や合唱による存在は非常に大きなものとなる。それに加えてテンポの緩急もあるので聴き飽きることはまずないだろう。
スキタイ組曲「アラとロリー」 1977年2月22日録音
・・・全4曲でありながらもその壮大な世界観は強烈な金管楽器によって特に衝撃を与えてくれる。私は冒頭からそのインパクトに心を奪われた。もちろん常に爆発力があるわけではなく、テンポの緩急が一曲一曲にあるためより聴きごたえがある。吠えるように一つの塊となって聴き手に襲いかかるような金管楽器とキャッチーな木管楽器や統一感とまとまりのあるスケールを保つ弦楽器などショルティ時代の素晴らしいシカゴ響の活気ある素晴らしいサウンドが功を奏している。それがエソテリック盤のSACDハイブリッド盤となり、最新のDSDマスタリングによってダイナミック・レンジがさらに向上された状態で聴くことができる名盤と言えるだろう。
交響組曲「キージェ中尉」 1977年2月22日録音
・・・同名の映画音楽をプロコフィエフが作曲しているが、それとはまた別で作曲された交響組曲である。今回の演奏ではバリトン独唱ではなく管弦楽版となっており、シカゴ響の各楽器における高い技量を演奏から味わうことができるようになっている。特に金管楽器の存在は非常に大きく、トランペットを演奏するアドルフ・ハーセスの美しさ極まった音色には惚れ惚れしてしまう。もちろんそれ以外の管楽器や弦楽器も申し分ない素晴らしさとなっているのでアバドとシカゴ響の世界観を余すことなく楽しむことができるのは非常に嬉しい。
アバドとロンドン響、シカゴ響それぞれのオーケストラによるプロコフィエフ作品をみてきた。後のベルリン・フィルとの「ロメオとジュリエット」やムソルグスキーの「展覧会の絵」、「はげ山の一夜」などもぜひSACDハイブリッド盤出てほしいと私個人としては考えている。そうでなくとも今回のエソテリック盤は想像していた以上に素晴らしい演奏となっているので、まだ聴いていない方はぜひはやめにご試聴いただきたい代物であることに間違いはない。
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