第1229回「サヴァリッシュ&N響1970年に行われたベートーヴェン生誕200年記念ツィクルス」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんばんは🌇本日8月26日はヴォルフガング・サヴァリッシュの誕生日です。今年で生誕99年となります。そんな本日ご紹介していくのはサヴァリッシュがNHK交響楽団と1970年、ベートーヴェン生誕200年記念として行われたツィクルスをみていきます。収録されているのは交響曲全集、序曲集、合唱幻想曲、荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)です。サヴァリッシュとN響は切っても切れない縁で結ばれており、今回の全集はその貴重な録音の一つであると言えるでしょう。7枚のCDに及ぶ素晴らしい名演をみていきます。


〜NHK交響楽団ベートーヴェン生誕200年記念ツィクルス1970〜


「ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮/NHK交響楽団」

ベートーヴェン作曲:
交響曲第1番 ハ長調作品21

交響曲第2番 ニ長調作品36

交響曲第3番 変ホ長調作品55「英雄」

交響曲第4番 変ロ長調作品60

交響曲第5番 ハ短調作品67

交響曲第6番 ヘ長調作品68「田園」

交響曲第7番 イ長調作品92

交響曲第8番 ヘ長調作品93

交響曲第9番 ニ短調作品125「合唱付き」

荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)作品123

「エグモント」序曲 作品84

「レオノーレ」序曲第1番 作品138

「レオノーレ」序曲第3番 作品72-b

「コリオラン」序曲 作品62

合唱幻想曲 ハ短調作品80



 サヴァリッシュとN響による貴重なベートーヴェンの交響曲録音が2018年に発売されていた。第1夜に第1番と第3番、第2夜に第8番と第5番、第3夜に第2番と第6番、第4夜に第4番と第7番、第5夜に第9番、第6夜に「ミサ・ソレムニス」が演奏されている。また、今回はそれら交響曲の前に演奏された序曲とサヴァリッシュがピアノを弾いている「合唱幻想曲」が収録されている。演奏は全て東京文化会館にて行われている。


 ベートーヴェン:交響曲第1番、1970年4月15日ライヴ録音

・・・録音状態もそれほど気になることはなく、全体的に軽さのあるスッキリとした印象を受ける第1番である。音色は芯のあるやや太めなもので、硬派な面も聴いていて感じた。同時期のカラヤンなどの演奏とはまた違うアプローチで、テンポの緩急もあるがテンポを落とす際はずっしりと落としており、その後加速する形がとられている。それもあって第4楽章の疾走感は第5番や第7番に匹敵する爽快感と推進力のあるエネルギーを感じることができる。弦楽器を中心として深みのあるサウンドを楽しめるのが非常に聴きやすい部分と言えるだろう。


 交響曲第2番、1970年4月25日ライヴ録音

・・・テンポの緩急とダイナミクス変化が明確なものとなっていることもあって聴きごたえのある第2番となっている。弦楽器の分厚いスケールを土台として木管楽器、金管楽器が演奏をしているということもあってバランスが良くなり、聴きやすさを生んでいる。「緩→急」、「急→緩」の各楽章の変化が分かりやすく演奏されていることもあって推進力からなるエネルギーなども楽しめるようになっている。第8番と同じくらいにインパクトのある名演だった。


 交響曲第3番「英雄」、1970年4月15日ライヴ録音

・・・ベートーヴェンが作曲した交響曲の中でも人気の高い作品の一つである「英雄」。今回の演奏を聴いた印象としては悠然としていてなおかつ厳格な「英雄」と聴いていて感じた。やや固めで芯のあるサウンドながら一度演奏が始まった瞬間から推進力のある強いエネルギーが絶え間なく注がれている。ダイナミック・レンジの幅広さもあり、豊かなサウンドと響きを全体から通して聴くことができるようになっているのに加えてテンポの緩急も失われないため非常に聴きやすい演奏となっている。


 交響曲第4番、1970年4月30日ライヴ録音

・・・第1楽章冒頭から綻びが生じているため、聴いていてハラハラさせられるような場面があったものの、最終的にはその明確かつ明瞭なサウンドが功を奏した形となり、鋭く研ぎ澄まされた明確な音色と響きをした演奏が展開されている。中でも弦楽器の疾走感溢れんばかりの壮大なスケールをまとった演奏は非常に聴きごたえがあると言えるだろう。ライヴ録音らしい豪快でインパクトのある演奏を聴くことができることは間違いないので、スリリングな第4番を聴きたい方にはオススメできるだろう。


 交響曲第5番、1970年4月20日ライヴ録音

・・・ベートーヴェンが作曲した交響曲の中でも一位二位を争う人気を誇る第5番。今回の演奏は、第1楽章で若干ノイズがあるものの、全体のまとまりは明確なものとなっていて濃厚かつ重厚的に演奏されている。テンポはやや重心低めで、重めの印象を受ける。最終的には第4楽章冒頭のファンファーレと共にエネルギーが全て放出されて推進力を強く感じることができる流れが確立されるわけだが、深みのあるサウンドとやや暗めの音色が功を奏している。サヴァリッシュの声が録音されているくらいに溜めの力強さも申し分なく、豪快に演奏されているので楽しめる箇所は多いと思われる。


 交響曲第6番「田園」、1970年4月25日ライヴ録音

・・・聴き始めは大人しいように感じたのだが、聴き進めていくと分厚いスケールと共に柔軟で色彩豊かな弦楽器の存在感がより一層増していく。緩急と同時にダイナミクス変化も明確なものとなっていることによるものと思われる。N響の演奏でここまで弦楽器が重厚的なサウンドとなっているのは中々聴くことができない気がする。全体的にテンポは遅く、やや落とし気味な部分もあるのだが、それによって今日までに聴き慣れた「田園」とはまた違う姿を垣間見ることができるようになっている。サヴァリッシュとN響の相性の良さを全面的に体感できる演奏という風に思えた。


 交響曲第7番、1970年4月30日ライヴ録音

・・・ベートーヴェンが作曲した交響曲の中でもポップで親しみやすく、キャッチーで聴きやすい第7番。今回の演奏ではやや朝比奈隆によるアプローチによった交響曲としての姿が全面的に描かれている印象を受ける。というのもそれほど全楽章共通してテンポは速さがなく、やや遅いくらいである。その中で緩急もあるのだが、壮大なスケールや柔軟性もそれほど少なくすっきりとしていて聴きやすい演奏となっている。


 交響曲第8番、1970年4月20日ライヴ録音

・・・今回の第8番に関してはこれまで聴いてきた演奏とは違い、簡単に流すことができないような情報量の多さがあると思う。木管楽器は割と軽やかで重さがないのだが、弦楽器群の分厚く重厚的なサウンドが対照的と言えるだろう。金管楽器と打楽器がキレ味を失うことなく演奏されているため、緩さがなくなりより空気が引き締まるような張り詰めた感覚を覚える。テンポはそれほど早くなく優雅に、しかし落ち着きのあるアプローチで演奏されていることもあって全楽章通してキャッチーで親しみやすさが生まれ、より一層聴きやすい第8番を聴くことができるようになっている。


 交響曲第9番「合唱付き」、1970年5月6日ライヴ録音

・・・サヴァリッシュとN響によるベートーヴェンの「第九」は今回の1970年録音の他に1973年録音も発売されている。1973年録音に関してはXRCDでなおかつ廃盤となっており手に入れることが難しい代物のため、比較的手に入れやすいのは当盤と言えるだろう。今回、ソプラノに中沢桂、アルトに伊原直子、テノールに丹羽勝海、バスに大橋国一、合唱は東京放送合唱団、二期会、日本合唱協会、藤原歌劇団合唱部が演奏に参加している。演奏は重心低めの悠然としていてなおかつ壮大なスケールを持って演奏されている。N響のみでの演奏も非常に素晴らしいのだが、第4楽章にて合唱が加わった瞬間の一体感はライヴらしい仕上がりで、迫力に関しては申し分ない大きな衝撃となっている。テンポの緩急も各楽章ごとに明確化されており、細かく聴きやすい「第九」が展開されている。


 荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)、1970年5月13日ライヴ録音

・・・「荘厳ミサ曲」、もしくは「ミサ・ソレムニス」と呼ばれることがあるこの曲。同じ時期でいえばバーンスタインがコンセルトヘボウ管とベートーヴェン生誕200年を記念として「ミサ・ソレムニス」を録音している。今回この曲を聴くのも久しぶりのことで、だいぶ前に当ブログでバーンスタイン&コンセルトヘボウ管の同曲を取り上げた時以来のことだ。「第九」に匹敵するほどの長大さと荘厳を演奏から感じることができるようになっており、聴いたものの心に安らぎを与えてくれる。そんな名曲である。ベートーヴェンは「ミサ曲」も作曲しているが、交響曲に近い形がとられているこの曲は、ソプラノに蒲生能扶子、アルトに長野羊奈子、テノールに丹羽勝海、バスに大橋国一が、合唱に東京放送合唱団、二期会、日本合唱協会、藤原歌劇団合唱部が演奏に参加している。


 「エグモント」序曲

・・・おそらくベートーヴェンが作曲した序曲の中でも一番の人気を誇っていると言ってもいいくらいの素晴らしさのあるこの曲。今回の演奏では交響曲と同様の厳格さと硬派な音色と響きをまといながら演奏されている。そのため、危ない橋を渡るような場面は基本的にはないが、ダイナミクスはより明確かつ統一感ある形で演奏されているので、終盤の追い込みに関しては聴いていて清々しい気分になる。


 「レオノーレ」序曲第1番

・・・計4曲存在するベートーヴェンが唯一作曲した歌劇「フィデリオ」。この後にはその中でも一番演奏される回数の多い「レオノーレ」序曲第3番が収録されているが、「レオノーレ」序曲第1番も聴くことができる。構成もほぼほぼ違っているのに加えて第3番が聴き慣れてしまったということもあるのだろうが交響曲的な面があり、より硬派な音色を感じることができる今回のN響のサウンドにぴたりと当てはまっているといった印象を受ける。


 「レオノーレ」序曲第3番

・・・第1番、第2番と何種類か存在している中で一番演奏される回数が多いこの「レオノーレ」序曲第3番。先ほどの第1番が約10分ほどだったが、第3番は約13分の演奏となっている。途中にあるトランペットのファンファーレが非常に印象的で、サヴァリッシュとN響は劇的かつ華麗に演奏していると言えるだろう。弦楽器には柔軟性と統一感があり、木管楽器には重さがなく軽い。金管楽器には活気がありつつ優雅な演奏が備わっている。全体としてもダイナミック・レンジの幅広さが明確で、まとまりのあるサウンドを聴くことができる。


 「コリオラン」序曲

・・・聴き始めた瞬間にフルトヴェングラーとベルリン・フィルによる「コリオラン」序曲を思い出した。統一されしっかりとした重厚的な土台となった弦楽器群による圧倒的なスケールとオーケストラ全体が奏でるトゥッティの音圧はまさにこの曲を初めて聴いた時の衝撃を思い出すかのようなインパクトがある。テンポは基本一定で進んでいくが、ダイナミクス変化はより細かく行われているためそれが躍動的に思える場面もある。ライヴ録音であることも重なって素晴らしい名演を聴くことができる。


 合唱幻想曲

・・・サヴァリッシュがピアノを弾いている貴重な録音と「第九」や「ミサ・ソレムニス」でも合唱として演奏に加わった東京放送合唱団、二期会、日本合唱協会、藤原歌劇団合唱部がこの曲でも合唱として演奏に加わっている。プログラムとしてはこの曲の後に「第九」が演奏されているため、まさにその前に聴くのにふさわしい演奏と言えるだろう。壮大かつ荘厳さは「第九」にとってあるということもあるのだろうが、美しい世界観は素晴らしいものとなっており落ち着きのあるサウンドだからこそ楽しめる点も多いと思われる。


 タワーレコードでは取り扱いが終了しているようだが、Amazonではまだ取り扱いがされているようでまだ購入することができるようになっている。サヴァリッシュによるベートーヴェン交響曲全集は「旧EMI」にコンセルトヘボウ管との録音が残されているが、今回とのN響とのライヴ録音がいかに貴重かよくわかると思う。今後も往年の時代における名演をどんどん発売してほしいところだ。サヴァリッシュによるベートーヴェンを久しぶりに聴くことができて今はただただ満足している。


https://tower.jp/item/4685096/ベートーヴェン:-交響曲全集、序曲集、合唱幻想曲、荘厳ミサ