ロトがこれまで録音したマーラーの交響曲はどれもハズレがないと言って良いくらいに素晴らしい演奏ばかり。ギュルツェニヒ管と録音した第3番、第5番はつい先日SACDとなって発売した。そして今回と同じロトとレ・シエクルからは第1番「巨人」の録音がすでに発売されている。今後も他の番号付き交響曲が発売されるかはわからないが、いずれにしてもピリオド楽器によるマーラー、現代の楽器におけるマーラーそれぞれを楽しむことができるのは非常に嬉しいことである。
マーラー:交響曲第4番、2021年11月録音
・・・第1番はハンブルク稿で演奏していたが、この第4番の曲調ともある意味近しいと言えるだろう。他の交響曲となるとものによっては非常に濃い内容、かつ壮大なスケールを持って演奏されるが、第4番はマーラーの交響曲の中でも一番編成が小さい古典的で牧歌的な趣きに戻っている。
第1楽章は全体的にテンポは速めに設定されており、オーケストラ全体のサウンドとしては非常に明るいものとなっている。その中で木管楽器が生き生きと自由に美しい音色を奏でている。特にクラリネットの深み、芯のある音色には心を掴まれることだろう。その中でもテンポの緩急があるので聴き飽きることはない。そして、なんと言っても冒頭から世界観に引きずり込まれる。ヴァイオリンが第1主題を奏でる際、ヴァイオリンのみテンポを落とす指示があるのだが、今日までに残された演奏や録音のほとんどはオーケストラ全体のテンポを落としている。今回のロトとレ・シエクルによる演奏はスコアの記載通りヴァイオリンのみテンポを落とし、それ以外の鈴やフルートなどは変わらないテンポで突き進んでいくようになっている。まさに細部までこだわり続けるロトらしいと言えるだろう。私が知る中で同じように演奏しているのはブーレーズくらいである。第2楽章は全体というよりも個々の楽器がそれぞれ主張気味になる。
第2楽章は混沌とした空間となるのでこれがあっているのだが、個々の楽器が奏でる音色が非常にキャッチーなものとなっているため、コメディ映画を見ているような楽しさが展開されている。テンポの緩急も明確に付けられているため危なっかしいような面もありつつ牧歌的で親しみやすいオトボケ感覚に近い面白さを求めると見事その通り、それ以上の結果が得られるだろう。
第3楽章はテンポを特に落としている。しかし、レ・シエクルが奏でるサウンドに関してはそこまで重さを感じない形となっている。それでもただ遅いテンポでのっぺりと演奏しているというわけでもない。柔軟で伸びやかな音色を奏でる弦楽器と、息ぴったりのアンサンブルを見せている木管楽器とホルンなどこの第3楽章をより一層たっぷり味わえる神秘的で美しい演奏だ。そして終盤の盛り上がりでトランペット、ホルンによる咆哮、ティンパニによるインパクトある衝撃は尖りすぎることなく美しさを保った状態で頂点に達している。そして静かに終わり「天上の生活」(第4楽章)へと向かう。
第4楽章でようやくソプラノ歌手が登場する。第3番の第5楽章でも歌われた旋律も区切りで登場する今回の第4楽章、ソプラノが加わったことにより全体のサウンド、響きに華やかさがプラスされた印象が強い。サビーヌ・ドゥヴィエルの歌声も透き通るような美しい歌声で、なおかつ伸びやかさがある。この楽章だけを聴いただけでも一瞬にして虜となってしまうこと間違いなしと言ったところだろう。「ハルモニア・ムンディ」から発売されるCDはどれも高音質盤ばかりとなっているので今回もそれが功を奏したということは間違いない。
「ハルモニア・ムンディ」から発売されたロトとレ・シエクルによるマーラーの交響曲第4番をみてきた。パワーが勝るサウンドというよりは色彩的でコミカル、ポップなサウンドが展開されている印象が強い。もちろんその中でテンポの緩急も明確化されているため、抜群の聴きやすさを誇っている。個人的な話だが、この曲の決定盤はバーンスタインとニューヨーク・フィルハーモニックによる1回目の第4番が好みだったが、今回の演奏を聴きその考えが変わったと言っても良いだろう。今後の展開から目が離せない名盤だった。
https://tower.jp/item/5471318/ロト&レ・シエクルのマーラー:-交響曲第4番
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