カラヤンがNYP（ニューヨーク・フィルハーモニック）に客演した貴重な記録である。録音状態がそれほど良くないため多少の聴きづらさは残るかもしれないが、この歴史的録音を楽しむのには充分なものとなっていると思われる。ウェーベルン、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウスといったカラヤンがいずれも後年ベルリン・フィルで演奏しているレパートリーをモノラル録音ながら豪快なサウンドで楽しむことができる。
ウェーベルン：弦楽合奏のための5つの楽章
・・・この曲といえばカラヤンが後にベルリン・フィルと録音した「新ウィーン楽派管弦楽作品集」を思い出す。元々は弦楽四重奏のために作られた作品だが、弦楽合奏用に編曲されて演奏されることもある。躍動的かつ不協和な響き、個性的な奏法など楽しむことができる。弦楽合奏のためか、ダイナミック・レンジはそれほど大きくないものの多少のゆとりを感じる仕様となっている。それにより各楽器を細部まで聴き込むことができるようになっているのでベルリン・フィルとの録音に引けを取らない。NYPの弦楽器によってダイナミックで壮大なスケール感を味わうことができるだろう。
モーツァルト：交響曲第41番「ジュピター」
・・・カラヤンによるモーツァルトを聴くのはいつぶりだろうか。正直なところあまり覚えていない。しかし、今回の録音を聴いてみて近年の古楽奏法を伴ったピリオド楽器や室内楽編成でのモーツァルトに近しいと言えるだろう。弦楽器の統一されたなかでキレ味抜群のスケールにはベルリン・フィルやでの演奏を思い出す。音質が良くない分高音域に達すると「キーン」となったり音割れが発生するため少々聴きづらい面もあるが、それ以外としてはテンポの緩急も明確化されており、細部まで細かくこだわり抜かれた素晴らしいサウンドが展開されている。
リヒャルト・シュトラウス：交響詩「英雄の生涯」
・・・カラヤンが録音した「英雄の生涯」は何種類か存在しているが、今回のNYP（ニューヨーク・フィルハーモニック）とのライヴはそれほど音質が良い代物ではない。しかし、NYPが演奏しているとは思えないくらいの推進力と機動力を備えた柔軟性、スケールのある壮大な演奏はまさにカラヤンが作り上げた充実したサウンドと言えるだろう。ヴァイオリン・ソロはジョン・コリリアーノが演奏している。弦楽器には重厚的で深みがあり、金管楽器はNYPらしい鋭く全てを包み込むような圧倒的な音圧が備わっている。また、「ドイツ・グラモフォン」にてベルリン・フィルと録音した1回目にあたる1959年録音と同じように若々しくエネルギッシュなアプローチが取られているため音質が悪かったとしても感動的な演奏であることに違いはない。
「Memories」に残された多くのライヴ録音は音質が悪いにしてもマニアにとっては非常に嬉しい代物があったりする。ここ最近あまりカラヤンの録音自体聴いていなかったような気もしているので、このタイミングでNYPとの1958年ライヴを聴くことができて個人的には非常に満足している。後日2008年に発売された「カラヤン生誕100周年記念BOX」をまだ聴けていないので少しずつ聴き始めたいと思う。
