第695回「クレツキ&チェコフィルのベートーヴェン交響曲全集、タワレコのSACDハイブリッド盤」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃昨年2020年はベートーヴェンのアニバーサリー・イヤーで、多くの交響曲全集が発売されたことと思います。実際未だに購入してからまだ試聴できていない演奏がいくつか存在しているのですが、今回はパウル・クレツキとチェコ・フィルハーモニー管弦楽団によるベートーヴェン交響曲全集を取り上げていきます。この全集に関しては過去にSACDシングルレイヤー盤で発売されていましたが、昨年11月18日にタワーレコード限定でSACDハイブリッド盤となり新規マスタリングを施された状態でリイシューされました。聴き始めるのに時間がかかってしまいましたが、本日満を辞して取り上げたいと思います。


「パウル・クレツキ指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団」


ベートーヴェン交響曲全集

「コリオラン」序曲

「エグモント」序曲



 クレツキは元々作曲家として活動していたが、ホロコーストにより両親や姉妹、肉親を殺害されてしまう。戦後は指揮者として活躍の場を広げ、1966年から亡くなる1973年までスイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督を務めた。

 交響曲第1番、聴いた印象としては堅実なベートーヴェンというもので、個性的な場面に関しては演奏では感じられないものの、「不動の精神」とでも言おうか、ここから始まるベートーヴェンの交響曲の始まりにおいて向かい合い、下手な小細工は使わない。そんな感じがしている。

 交響曲第2番、普段あまりこの曲自体は聴くことが少ないが、クレツキの演奏は非常に聴きやすかった。キレもあり、チェコ・フィルの音に統一感が何より感じられる。特に弦楽器のまとまりはベルリン・フィルやウィーン・フィルにも引けず劣らずの良い音色となっていることは間違いない。普段はあまり表に出て積極的に演奏されないこの曲だが、これは決定盤と言われてもおかしくはない素晴らしさを秘めている。

 交響曲第3番「英雄」、曲の始まりは勢い良く、徐々にテンポを落としていき最終的には重心が低くなる。まるでリヒャルト・シュトラウスが最後に作曲した交響詩「英雄の生涯」を聴いているかのような壮大な一人の「英雄」の人生を聴いているかのような演奏ともとれるだろう。第1楽章はリピートがないため、その分演奏時間はいつもよりも短い形となっている。その分劇的な演奏を聴くことができるので、オススメしたい演奏の一つだ。

 交響曲第4番、カルロス・クライバーがバイエルン国立管とライヴ録音したものが有名なこの曲、今回の演奏はそれ以前の時期による演奏となっており、全体的に劇的な印象を感じる。普段からこの曲自体頻繁に聴かないということもあるが、第4楽章の疾走感は交響曲第7番に近い素晴らしさを秘めている。今回の演奏ではキレが良く、比較的聴きやすい演奏だったと言えるだろう。

 交響曲第5番、ベートーヴェンの交響曲の中でも筆頭格として扱われる日本では「運命」と言う名前で親しまれているこの曲。古楽器や室内楽編成時のようなキレ味は今回の演奏では感じられないものの、優雅なベートーヴェンを聴くことができる。第1楽章ではこの時代ほとんどカットされてしまっているリピートは繰り返しありとなっていることはもちろんのこと、第2楽章の悠然としたテンポで奏でられる安らぎはこの曲屈指の演奏とも感じられることは間違いない。

 交響曲第6番「田園」、重心が低くめなため、目を閉じた状態で聴いているとその心地良さにうっとりしてしまい思わず寝てしまいそうになる演奏。「田園」にはこれくらいの雰囲気を持っている方が曲としても聴きやすい。重めのテンポとなっていることにより、しっかりと歌うことができるため弦楽器の美しい音色を堪能することができる。

 交響曲第7番、今回の演奏を聴き思い出したのは朝比奈隆による演奏である。彼はこの曲をより交響曲らしい姿へ変化させたが、クレツキの表現も同様の考えが汲み取ることができる。近年主流になった古楽器や室内楽編成の奏法のように、キビキビとしたよりキレのある演奏や、疾走感溢れる演奏を好んでこの曲では演奏されるが、クレツキや朝比奈隆の演奏はそうではない。どちらかといえば遅いくらいだ。クレツキはその中でも細かいテンポ変化を駆使しているため、朝比奈隆ほど時間がかかっていない。故に聴きやすいのだ。第1楽章ではやや重心を低め、第2楽章ではガッツリと重くする。第3楽章ではやや速くしたり伸びやかに歌い上げ、第4楽章では総決算としてまとめている。今までカルロス・クライバーによる演奏が好みだったが、今回の演奏でその地位が変わったことは言うまでもない。

 交響曲第8番、いつもならば短い曲で底抜けに明るい印象を受けるこの曲だが、今回は違う。より交響曲らしい壮大な世界観がクレツキの演奏では体感することができる。特に第4楽章では最終的なまとめとも言わんばかりのまとまり感とダイナミック・レンジの広さがいつもとは違うこの曲の顔を出している。個人的にはヴァント&北ドイツ響の演奏が長い間好みだったが、それに引けを劣らない凄みを持った演奏であると私は思う。ラストの追い込みは圧巻のもので、非常にカッコいい。

 交響曲第9番「合唱付き」、クレツキによる「第九」を聴きた時、非常に興奮したのを覚えている。同時期でいえばカラヤンやクリュイタンスが全集を完成させたが、それらとはまた違う「第九」であると私は感じた。細かいテンポ変化もそうだが、強すぎない良い音を鳴らすティンパニや第4楽章にて有名な「歓喜の歌」を合唱とオーケストラが奏でた際のダイナミクスはこの曲随一の名演という風に認識した。オーケストラ、合唱、歌手の個性を殺さないように全てがバランス良く演奏されている名盤を追い求めるならば、必ずクレツキの演奏にたどり着く、そんな感じがする。

 今回序曲枠として「コリオラン」序曲、「エグモント」序曲の2曲が収録されている。いずれの曲も攻撃的なカッコよさはなく、優美に、余裕すら感じられるように演奏されている。「エグモント」ではラストの局面でトランペットが1オクターブ音域を上げた状態で演奏しているため、より圧巻の演奏を楽しむことができるようになっている。

 スプラフォン・レーベルのオリジナル・マスターテープを使用しマスタリングを施された今回の全集、以前SACDシングルレイヤー盤が発売されたが、その時の音質が気になるところ。ただ、私はまだSACD対応プレイヤーを持ち合わせていないので、今回のSACDハイブリッド盤を購入できて十分に満足している。今後もクレツキの演奏や同時期のチェコ・フィルの演奏を聴いていきたい。

 ちょうど先日取り上げたばかりのイスラエル・フィルとのシューマン交響曲全集、この時とはまた音色もチェコ・フィルでは全く違うものの、クレツキの表現を全身で感じることができた。今回のベートーヴェン交響曲全集でも同様の印象が強かったのと、これまで何十種類も全集を聴いてきたが、他の演奏にはない凄さを何度も体感することができた演奏となっているので、聴き終えた今としては満足している。