昨年、秋の特別拝観を訪ね庭園の紅葉が美しく彩られていた。年に二回、春秋に公開されているため、春の今回を楽しみにして拝観させて頂いた。長寿寺は建長寺の境外塔頭の一つであり山号寺号を宝亀長寿禅寺と言う。鎌倉街道から亀ヶ谷坂に入る角にあるため、その名が付けられたのだろう。この十年ほど前までは非公開であったが、春と秋に特別拝観日として拝観者を受け付けて頂いている。昨年の春はコロナウイルス感染症の非常事態宣言等があり中止になったが、秋から再び特別拝観を受け付けて頂いた。
鎌倉街道沿いの石段を上がり茅葺の山門が有り、美しい庭と茅葺の観音堂はどの季節に訪れても風情を感じさせていただける。春の特別公開は桜の満開時期から始まり、続いて著莪、所喝采、牡丹、躑躅、皐、新緑の木々、紫陽花と順次開花していく。今年は例年より一週間ほど早く咲き始めていると言う。四月の十日に訪れ、著莪、諸喝采は咲き乱れていた。牡丹、躑躅は咲き始めており大輪を付ける牡丹も見られた。躑躅、皐は本来ツツジ属の総称であるが日本では躑躅、皐、石楠花を分けて呼ぶ風習がある。開花時期が躑躅は四月から六月、皐は五月~六月に開花する。私の思うには皐は躑躅より大きい花を咲かせているようである。石楠花はツツジ属、シャクナゲ亜属に分けられ、四月から六月に開花し、派手な大きな花が特徴である。
宗派:臨済宗建長寺派。 山号寺号:宝亀長寿禅寺。 創建:元享三年(1323:諸山第一位に列した尊氏の記録が残されている)から建武三年(1336:寺院の略縁起による)。 開山:古先印元禅師。 開基:足利尊氏。 本尊:釈迦如来。 寺宝:、木造観音菩薩立像、木造古先印元禅師坐像(室町期の彫刻像で仏教美術史上に於いても貴重な像である)、木造足利尊氏坐像(衣冠束帯、像内に元禄二年再造の由起文がある)、尊氏遺髪を納めた変形五輪塔他(平成三十一年の台風により損壊したが、この春には再建されていた)。
長寿寺略縁起には建武三年に足利尊氏が邸跡に創建し諸山第一位の列に定められた。延文三年(1358)四月二十九日、五十四歳で京都において没す。法名を京都では等持院殿、関東においては長寿寺殿と称す。尊氏没後父の菩提を弔う為、初代鎌倉公方足利基氏によって七堂伽藍を備えた堂宇が建立された。開山の古先印元禅師(初代住職)は永仁元年(1294)薩摩で生まれ八歳で円覚寺桃溪禅師の下に投ず。ニ十四歳で中国に渡り天目山中峰国師に参ず。三十三歳で帰国、当山の御開山となる。境内裏山には尊氏の遺髪を埋葬したお墓がある。観音堂は奈良県の柳生街道沿いの古刹認辱山円城寺(運慶二十歳の策とされる国宝大日如来像があり、舟遊式浄土庭園を併せ持つ)より室町期に建立された多宝塔の第一層を大正時代に改造移築したものである。堂内には、右手に小鳥を乗せた「木造聖観音像」が安置され慈悲を与えるその姿は、非常に美しくしい。
「続本朝通鑑」によると文安五年(1448)十二月火災に遭った事が記載されている。また円覚寺には長寿寺にあったとされる釣り鐘があり、その銘は元中六年(1389)、長寿寺には僧堂があったと記され、七堂伽藍の規模を示している。
「拝観心得」として
一、 拝観時間 自 午前十時
至 午後三時
一、 写真撮影を目的とする拝観は禁止
一、 境内禁煙
一、 参道敷石以外歩かない
一、 苔の中には立ち入らない
一、 心静かに拝観のこと
この日は、拝観者も少なく、寺院屋内にそれぞれの庭を見られる各部屋があり、ゆっくりと庭園を拝観させて頂いた。鎌倉街道沿いの石段を上がり茅葺の山門を入ると喧騒は消える。静寂した境内の美しい庭と茅葺の観音堂は季節に応じ、風情を楽しめる寺院である。