心臓外科医として、診療所医師として | 道 〜心臓外科医 奈良原裕のブログ〜

道 〜心臓外科医 奈良原裕のブログ〜

あの日がくるまで僕は人生のうわっ面しか追いかけてこなかった。医師となり心臓外科医となって、これまで何をしてこれから何をしていきたいのか。この道がどこで終わるのかはわからないけれど、向きたい方向に顔を向けて歩いていこうと思う。

心臓外科医として約9年が過ぎました。振り返ると自分はこれまで手術技術の向上に邁進してきたような気がします。そして、世の中の心臓手術においても内視鏡下手術や血管内手術など新しい技術や機器の開発が進み、より一層高度・複雑化の一途を辿っており自分も専門としていながらもついて行くのが容易ではない状況となっています。

 

そして、医療の高度・複雑化は検査結果や技術偏重へと進み、”治しているのは生身の患者さんではなく電子カルテ内にデータとして存在する患者さん”…あたかもこのような状況を生んでいると言っても過言ではない気さえします。

 

このような中、患者さんや家族と医療従事者との間の情報格差は広がる一方だと感じています。日頃は、出来るだけ時間をとって説明しようと心がけていますが、十分に理解してもらえているだろうかと常に心配しています。そして、この患者さんとのギャップを埋める言葉は、医療情報をかみ砕いて伝えるということだけではないと感じています。誤解を恐れずに言うならば、患者さんや家族の死生観に踏み込んで、寄り添い共感し合う医療が求められる一面があると思っています。

 

医師不足で困っている地で働こうと思ったのは、今以上の収入を得るためでも、普段と違う臨床経験を積むためでもありません。医師の原点に戻るような医療・診療を忘れずに続ける。これを現役をリタイアしたような年齢からではなく今行う。それがこれからの自分には大切なことだと思えたからです。

 

そして、同じように週7日の内1日だけでも医師不足に悩む地へ赴くことが出来る医師が増えれば、地域医療格差解決への一助にもなるのではないか、そのような思いも抱いています。微力ではありますが、菊名で心臓外科医として働くのと同様に、松之山での診療にも尽力していきたいと思っています。