夜も更けてきた頃。
本来は人の訪ねて来る時間でもないのだが、ドアホンが鳴った。
「ん、こんな時間に誰だろうな。」
「さぁ?」
妹か、などと警戒しつつ逸見は玄関へ向かう。
扉を開けると、そこにいたのは自分と同じ年ぐらいの男性だった。
「悪いね、こんな時間に。仕事帰りでさ。」
「・・・誰だっけ?」
「ひでぇ。誰が、てめぇの所に・・・」
男が言い終わる前に、逸見の後を追ってきた綾織が言葉を割り込ませた。
「おお、お前か!」
「ほら、そっちは覚えてるらしいぞ。」
「ぐぬぬ・・・」
逸見は頭を捻る。どうやら彼は、他人の顔や名前を覚えるのが相当苦手なようだ。
「こいつが、お前のアドレス教えてくれたんだぞ!つまるところ、影の立役者、恋のキューピットだな!ホント、感謝してもしきれないぞ!」
「あー、あんたか。久しぶりだな。」
「その反応は、思い出してる反応だな。感心感心。」
男はうんうんと頷く。
「流石に、こいつが恋のキューピットとか、鼻で笑うわ。ハートのスナイパー(物理)みたいなヤツだぞ。笑顔で毒を吐くからな。」
「感謝して欲しいもんだがね。私ゃ、あんたがそいつに惚れてるの知ってたから、手伝ってやったと言うのに。」
「・・・そんなこと言ったか?」
「言ってない。が、あんたは私に似すぎててな。考えてることくらい、手に取るように分かる。お互い様だろ?」
「まぁ、言われてみればそうか。・・・立ち話もなんだ、上がれよ。」
「お、悪いねぇ!安心しろー、ちゃんと酒持って来たぞ。」
そう言って、男は手にしたビニール袋を持ち上げる。
「重いから、誰か持って~。」
「おう!力仕事なら任せろ!バリバリー」
綾織は袋を受け取る。
中を覗き込むと、素っ頓狂な声を出した。
「・・・あれ、お酒買ってないのか?オレンジジュースとか入ってるぞ。」
袋には烏龍茶、オレンジジュース、牛乳、挙句の果てには炭酸水なども入っていた。
綾織の素直すぎる反応に、男は満足げに反応する。
予想していたように反応してくれる人が居ると、準備した甲斐がある。そうして満足感を得る、と言うのは逸見と似通った性格ゆえか。
「ふっふっふ、昔取った杵柄よ。」
逸見が補足する。
「そいつ、昔、居酒屋でアルバイトしてたからな。カクテル作れるんだよ。」
「そうだったのか!?」
「えっへん。どやー。」