世界人口の行方(1/15) | sakoのブログ

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「2049年には人類の4人に1人がアフリカ人に•••」国連の最新予測が“過少”だと思うわけ



「2049年には人類の4人に1人がアフリカ人になり、この比率は2100年にはほぼ4割に達する」。国連経済社会局人口部の最新予測だ。この数字はあちこちで引用されるが、私は、この見積もりは過少だと考えている。


世界すべての国の人口統計を揃え、各国別に長期予測を作成して人類の総数をカウントするーーこの壮大な事業において国連人口部に敵う機関は世界中どこにもない。国連予測が使われるのは、これが唯一無二の予測だからである。


だが、日本の人口予測に関しては国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)の予測が専ら使われ、国連予測が引用されることはない。なぜなら両者が大きく異なっているからだ。IPSS最新予測では2070年の日本人口は8700万で合計特殊出生率(TFR)が1.36なのに対して、国連予測は8950万でTFRは1.51とされている。


国連はこれまでも日本の出生率は直(じき)に回復すると想定し、将来人口をIPSSより常に多めに予測してきた。その結果、予測を外し続けてきたのである。この事情は日本に限ったことではなく、TFRが人口置換水準、およそ2.1を割ったすべての国について同水準への復帰シナリオを作成してきた。確率論の手法を取り入れるようになった2010年版からはさすがに単純一律な復帰予測ではなくなったが、それでもTFRが上昇反転するという想定は維持されている。だから、国連人口部の先進国人口予測は毎回上振れする。


アフリカの人口統計は“国連の作品”

一方アフリカに関しては、TFRは即座に低下トレンドに乗り世紀末までには人口置換水準に落ち着くと想定している。出生届や死亡届、人口センサスが整備されていない開発途上国、なかでもサブサハラ・アフリカの人口推計・予測に関して、国連は試行錯誤を続けてきた。各種サンプル調査を通じて人口情報を集め、推定モデルを作成して精度を高めてきたのである。アフリカの人口統計は“国連の作品”といえるほどだ。


ではなぜ国連人口部は、先進国の人口を高めに、アフリカの人口を低めに予測するのか。それは人口転換論という思想を予測の前提にしているからだ。


人口転換論とは「近代化が進行するにつれ死亡率は低下していくが、その過程で、多産多死時代の高い出生率がしばらく維持され、出生率が下がるまでのあいだ多産少死状態が現出して、一回きりの人口爆発が起こる。やがて出生率も低下して少産少死となり、人口はふたたび定常状態に復帰する」というものである。国連人口部はこの思想に基づいて、人類全体の人口定常化をおよそ100年後に遠望しているのである。


アフリカ農業は女性と児童労働に依存

しかし、人口学が発展するにつれ人口転換論の綻びが徐々にみえてきた。なかでも深刻なのは新たな人口定常、すなわち出生率の人口置換水準への回復が、どの国においても実現していないことだ。出生率の動向を説明できる理論はいまだ存在しない。したがって出生率を引き上げる決定的政策もない。先進諸国の人口増加率を動かしているのは、むしろ移民の数である。


他方アフリカに関しては、数々のサンプル調査から判断する限り、国連人口部が想定するスピードでTFRが下がっていくという確たる証拠はない。一夫多妻婚比率は安定して高く、児童婚・若年婚比率も高く、夫妻双方における希望子供数は多くの国で5人を超えている。10代で結婚する女性が多く、これが一夫多妻制を支え、出生期間を長くしているのだ。そこには、いまだ6割の人口が農村に暮らしていて、その過半が食糧生産に従事し、農地が拡大し続けているという背景がある。アフリカ農業は女性と児童労働に多くを依存しているのである。


人口集中がもたらすもの

通常引用されるのは出生率中位予測だが、国連人口部はほかにも、出生率低位と高位、出生率一定、死亡率一定など複数シナリオを公表している。このなかで、今世紀に入ってからアフリカや日本の実態にもっとも近かったのは出生率一定シナリオだった。つまり、日本においてもアフリカにおいても出生率は、想定ほど変化しなかったということだ。そこで試みに、TFRが低下している最中の国については中位予測を、TFRが人口置換水準を下回っている国と、本格的低下が始まっていないアフリカ諸国については出生率一定予測を組み合わせて世界人口予測を作り直してみると、2086年にはアフリカの人口がおよそ65億人となって、人類総数の50%に達する。


人類の2人に1人がアフリカ人になるーーまさに未曾有の事態だ。20年を超えると人口予測はほとんど当たらないのだが、それでも、現在のトレンドはその方向に向いている。そのなかで予想されるか。


人口縮小社会が経済力を維持していくためには…

第一の懸念は食糧需給で、そのことはウクライナ戦争で既に垣間見えている。アフリカ大陸は水資源が決定的に不足していることから、農業増産には超えられない限界がある。増えていくアフリカの人口を支えるだけの食糧増産を、はたしてどこの国が賄えるか。また日本のように輸入によって食糧供給を維持している国は、タイトになっていく国際供給体制のなかで自給率を高められるのか。


人口と経済力の偏在が進むと移民圧力が加速的に強まる。その反発としてナショナリズムが高まり政策につながる動きを、我々は既にみている。世界の移民分布における希薄地帯は東アジアだ。人口減少が始まった東アジアに、アフリカ移民を受容して活用する社会的能力が生まれるだろうか。


人口縮小社会が国外のダイナミズムを市場を取り込んで経済力を維持していくためには、まず世界の姿を知ることだ。産業力の弱いアフリカの域外依存度は、一貫して高まっている。その商機を認識できているだろうか。


◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。


(平野克己/ノンフィクション出版)


https://news.livedoor.com/article/detail/25665485/


難民の取り扱いが難しいですね。