■暴力の中に生きるしかない少女に優しく呼びかける『ドヒ』 | 韓国・ソウルの中心で愛を叫ぶ!

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ポッドキャスト韓国語マガジン“サランヘヨ・ハングンマル”の編集長が、韓国と韓国文化の見つめ方を伝授します。


「私がうまくやるから、何でもいうとおりするから」


●女性監督の繊細な心理テーマに感嘆


先月観た作品ですが、キム・セロンちゃんとペ・ドゥナさん主演の映画『ドヒ(도희야)』(チョン・ジュリ監督)です。


題名が名前の呼びかけになっているとおり、とてもかわいそうな少女の話ですが、思っていたよりももっと高度な話で見ごたえがありました。


最近、韓国映画の題材でとみに増えているのが、主人公の娘が強姦や強姦殺人にあうという恐るべきモチーフであり、チャン・ヨンナムさんの『公正社会(공정사회)』(イ・ジスン監督)や、ソル・ギョングさんの『願い(소원)』(イ・ジュニク監督)、日本映画リメイクである、チョン・ジェヨンさんの『さまよう刃(방황하는 칼날)』(イ・ジョンホ監督)などがありました。


紹介を聞いて、またそんな内容なのかと辟易しながら、しかし、大好きなキム・セロンちゃんとペ・ドゥナさんの主演だし、観ないわけにはいかないなあと映画館に足を運んだのですが、結果は、決してそんな内容ではありませんでした。よかったあ!とても悲しい話ではあるけれど、でもとりあえずセロンちゃんは強姦や殺人の危険にさらされたりはしません。(^^;)


実際、セロンちゃんの積み上げてきたイメージを考えれば、前作の『バービー(바비)』(2012)に続いてもっと猟奇的な方向に描かれる可能性は充分、あったと思うのですが、監督が決してそんな安易な流れに乗らずに本当によかったです。


実際、女性監督らしい、もっと深い心理的テーマに感嘆しました。もう一つ、表面に表れる題材としてすぐに同性愛というものが目に付くと思いますが、私はそれもまた一種の小道具に過ぎないと思いました。



●暴力で関係が成立する世界に生きる「ドヒ」


作品の描き出すテーマはやっぱり、「ドヒ」(キム・セロンちゃん扮)という孤独な少女の心に照明を当てることにあります。ドヒは韓国のド田舎の村で、血のつながらない父親と祖母と暮らしていますが、酒乱である二人からひどい暴力を毎日受けています。


それゆえに人間関係を結ぶのが上手ではなく、学校ではみんなからまたひどいイジメにあっています。でも本人いわく「どっちにしても遊んでも面白くない」ということであり、あまりイジメを苦にしている様子でもありません。


それどころか、驚くのが、自分をいじめる人の前以外におけるドヒの明るさなわけです。彼女は自分をかくまってくれた女性警察署長であるヨンナム(ペ・ドゥナさん扮)の前で、屈託なく歌ったり、漫談を披露してみせます。さらに「自分は一人で歌って踊ると気分がよくなって楽しくなるんだ」といい、実際に一人で埠頭に行っては踊っていたりします。


つまり、彼女はあまりにも暴力が当たり前の中に生まれ育ってきたため、暴力を受けることを不幸だと思って落ち込む正常な感情が欠落してしまっているのです。


しかし、暴力によって人間関係が成り立つ中で生きている人間が行えることは暴力しかありません。ドヒは、ヨンナムが昔の恋人(女性)と会って、遅く帰ってきた時に、ヨンナムの関心を自分に向けさせるために、壁に頭を撃ちつけて自虐に走ります。



●孤独だったヨンナムが「ドヒ」を見つける映画


これ以上は書きませんが、ドヒは最初から最後まで、そのような微妙な「異常さ」をもって描かれています。


しかし、ここでヨンナムが同性愛者であることが生きてくるわけです。ドヒがそのように育ったのは、そのような環境に生まれてきてしまったからであり、彼女自身を責めることはできないわけです。それが理解できるのは、やはりヨンナム自身が自らの意思とは関係なく同性愛者として生まれてきているからでしょう。


そのように生きるしかなくなっているドヒは、そのまま理解者なく育っていけば、間違いなく異常者として犯罪者になるか、孤立して自殺するしかないでしょう。そのすべてを理解するのは、ヨンナムというやはり孤独な存在だけです。誰にも理解されないヨンナムが、誰にも理解されないドヒのすべてを理解した時に、そこからドヒの人生をまったく最初からやり直させて、たとえば、母親代わりに育て直していくという道も、ヨンナムにだけは可能になります。


孤独だったヨンナムが、かわいそうな少女「ドヒ」を見つけて、そこに自らの姿を見出しながら、「ドヒや」と優しく呼びかける、そのような映画『ドヒ』。女性監督らしい優しい視線と共に、二人のすばらしい演技がお勧めです!(あと、麗水の美しい海と山河も!)



【あらすじ】 人里離れた海辺の村、14歳の少女ドヒ


逃げ道のないその場所で、実の母が逃げた後、義父ヨンハと祖母から虐待される傷を抱えて生きているドヒの前に、また別の傷を抱えて村の派出所所長として左遷されたヨンナムが現れる。


ヨンハと村の子供たちが加える暴力からドヒを守ってあげるヨンナム。ドヒは生まれて初めての味方であり、この世のすべてとなったヨンナムと一瞬たりとも離れたくなかった。しかし、ヨンナムの秘密を知ったヨンハが彼女を危機に陥れる…。


無力に見えた少女ドヒ。しかしヨンナムと離れなければならない危機に直面すると、自分の世界のすべてであるヨンナムを守るために危険な選択をすることになる…。






























『ドヒ(도희야)』(チョン・ジュリ監督)予告編。


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