私が韓国に来た20年前から1990年代の10年ほどの間は、韓国にはとにかく高級な日本料理店としての“チャムチ（マグロ）専門店”が多かったものです。当時、最高で全国500軒を超えていたということで、繁華街に行けばどこでも見かけたものですが、今やそれが150店ほどに減ってしまったという報道。ほとんど見つけにくい種類の店になってしまいました。
韓国に来てまもなくの頃は、私が日本から来たということで連れていってもらえることもあったし、マグロのお刺身やお寿司、マグロ料理を食べられるそれらのお店がとてもありがたかった記憶があります。でも、その当時の低ーい物価の中で、一人5万ウォン（当時のレートで1万円くらいだった頃も）も出すような高級料理だったし、「こんなにお金を出してまで食べるなんて、韓国人は本当にマグロが好きなんだなあ」と思ったのを覚えています。
ところが、それも1997年末のIMF経済危機までの話で、それ以降は、二大巨頭であった東遠産業の「東遠チャムチ」と思潮産業の「思潮チャムチ」の高級マグロ店が勢いを失い、2000年代に入ってからは、大衆価格を売りとする「独島チャムチ」、「離於島チャムチ」などのいくつかの新興低価格マグロ専門店が、いわゆるマグロだけの食べ放題である“無限リフィル18000ウォン（約1300円）”などという商品を目玉として大衆化に繰り出してきました。それがヒットするのも、韓国人のマグロ好きを表してますよね。
一時期はそれら低価格店が200店舗ほどになったらしいですが、ご存知のとおり、その後、ここ数年来は、日本でもかなり話題となっている、世界的乱獲によるマグロ大不漁と価格の高騰の時代が到来、値段がどんどん上がり始めます。いわゆる世界的な日本食＆「sushi」ブームで消費量が増大し、そこに昨今の巨大市場・中国での寿司ブームが加わってマグロ需要が急増、世界中で大型船の巻き網漁による乱獲が行われて、今や国際自然保護連合（IUCN）が絶滅危惧生物を記載する“レッドリスト”に、マグロ8種のうち5種を記載するという事態にまでなったんですね。
日本の報道によれば、沿岸マグロの延縄漁で漁獲高日本一である宮崎県日南市では、2004年には年間969本のクロマグロを水揚げしていたのが、昨年にはわずか81本にまで激減してしまったそうです。当然、日本からの輸入に頼ってきた韓国も、マグロ難時代に突入することになります。なんといっても、日本は世界で取れるマグロの3分の1を消費する世界一のマグロ消費国なわけで、そういう国が不足にあえぐのに、韓国にいいマグロなんて回ってこないですよね。
ということで、すでに低価格化が進んでいたこともあり、今や高級なメバチやキハダなどがほとんど扱えなくなり、学術的には正式なマグロではないカジキマグロ類をマグロとして売っている状況だということです。すなわち、“マグロの低価格化”は、韓国社会におけるマグロ大衆化には寄与したものの、ホンモノのマグロとはいえないものが一般化することになってしまった上に、産業としての収益性も悪化させて、冒頭に書いたようなマグロ店の激減となってしまったということなわけでした。
ということで、そんな韓国の現在のマグロがいったいどんなものなのか、久しぶりに、くだんの（日本人には名前が微妙な）「独島チャムチ」の鍾閣（チョンガク）店に行って食べてきました。ランチメニューで、定食と寿司、共に15000ウォン（約1070円）を注文し、マグロばかりだと寂しいのでうなぎ定食（13000ウォン）も頼んで、混ぜて食べてみました。マグロ、美味しいネタもありましたが、何より残念なのが、冷凍が解けきらない状態で出てくること。やっぱり日本のお寿司屋さんが懐かしくなりましたね。(^^;)
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