皆さん、おはようございます!
火曜の定例コラム、今週の担当は行政書士の植松和宏です。
さて、法律関係者の間でよく使う「相続が争族」になるという表現があります。
文字のとおり、もともと仲がよかった親族が、
遺産をめぐって骨肉の争いを繰り広げる状況をいうのですが、これは悲しいですね。
こうした親族間の争いを避けるための有効な手段が遺言書を書くことです。
しかし、不備のある遺言書を書いてしまうとそれが争いを招いてしまうこともあります。
そこで私の担当回では、不備のない遺言書の書き方について説明いたします。
ちなみに「遺言書」は「ゆいごんしょ」ではなく「いごんしょ」と読みます。
遺言書を作成する方法には、
自筆証書遺言、
秘密証書遺言、
公正証書遺言、の3種類があります。
どの方法で遺言書を作っても効力は同じです。
ではどの方法で遺言書を作るのがよいでしょうか。
いずれの形式にも長所と短所がありますが、もっとも簡単な方法は自筆証書遺言です。
今回は、誰でもすぐに作成できる自筆証書遺言について説明します。
自筆証書遺言書は、
文字通り自分で遺言する内容を書き、それを残しておくというものです。
定型の様式もありませんし、筆記用具や用紙の制限もありません。
誰に何を残すのか明確にして、遺言した日付と押印があればそれでOKです。
あまりにも簡単すぎて、拍子抜けしてしまう方もいるのではないでしょうか。
ただし、自筆証書遺言には落とし穴があります。
自筆証書遺言は、すべて自分が書かなくてはなりませんから、
パソコンやメールでは効力がありません。
もちろん、ビデオレターなどは遺言としての法的効力はありません。
また、仲の良い夫婦が「自分が死んだら財産は残された配偶者に・・・」と、
1通の遺言書に連名で相互遺言(同じ用紙に2人で書くこと)をしようとしても
これは認められません。
遺言書は1人1人が単独で書かなくてはなりません。
どんなに仲の良い夫婦でも、遺言書と歯ブラシは別々のものにしましょう。
では、さらに気をつける点を順にみていきましょう。
まず、筆記用具についてです。
これはとくに指定はありませんので、ボールペンでも万年筆でもかまいません。
墨を磨って筆で書いても、鉛筆でも、クレヨンでも、
遺言書としての要件に不備がなければ有効です。
色も、黒でも青でも赤でもOKです。
しかし、簡単に改ざんできてしまう鉛筆で書くことはお勧めできません。
どうしても鉛筆で書きたいのだという人以外は、
消すことが困難な筆記具を用いるべきです。
インクを用いたとしても、時間の経過とともに退色してしまう色は避けるべきでしょう。
次に用紙についてです。
これも法律ではとくに指定していません。
半紙でも便箋でもノートでも原稿用紙でもかまいません。
極端な例では、折り込みチラシの裏に書いてもOKです。
また、縦書きでも横書きでもかまいません。
書き方も、箇条書きでも、手紙のような形態でもかまいません。
ただし、あまりにも適当な用紙に書くと、
ゴミと間違えられて処分されてしまう可能性もありますし、
なにより遺言者のセンスが疑われます。
保存性の高いしっかりした用紙を使用するべきでしょう。
では、インクを使用した筆記具で、
保存性の高い中性紙を用いて書けばそれでよいでしょうか。
まだ要件があります。
遺言書では誰に何を残すのか明確にしなければなりません。
この記載を忘れる方はまず居ないでしょう。
忘れやすいのは、日付を書くことです。
遺言書では、日付が明確でないものは効力がありません。
「平成23年2月15日」と書くのが原則ですが、
「2010年クリスマスイブ」のように12月24日という日付が特定できればかまいません。
「2011年誕生日」もよいでしょう。
しかし、「平成23年2月吉日」は認められません。
「吉日」というのは何日か特定できませんので、これでは効力が発生しません。
誰もが判断しやすい日を明確に書きましょう。
もし、遺言書が2通見つかった場合には、この確定日付が新しいものが有効になります。
さらに、自筆証書遺言では押印が必要です。
印鑑は実印登録した印鑑である必要はなく、認印でも三文判でもかまいません。
しかし、亡くなった方の最後のメッセージである遺言が
三文判で締めくくられているのはちょっと寂しいですね。
これは見栄えの良いものにすべきでしょう。
確定日付も明確で、誰に何を残すのか明らかにして、
全文を自筆で書き押印もあれば完璧でしょうか。これなら形式は問題なさそうですね。
こうして自筆証書遺言書ができました。
遺言書を作るというとすごく大げさな感じがしますが、意外と簡単だと思いませんか。
大切にしていた愛用の万年筆はこれまで支えてくれた妻に。
長年使用した腕時計はこれから活躍する息子に。
メッセージをつけて自分の周りのモノを残すことも遺言です。
家族を想いながら、手紙を書くように自筆証書遺言を書いてみるのもよいでしょう。
それでも・・・
実際に相続が始まると、遺言内容についての争いが生じることや、
遺留分(相続人が必ずもらうことができる一定割合)の侵害が問題になることもあります。
また、遺言書を残して置いたにもかかわらず、それが発見されなければ無意味です。
相続させようとした人が先に亡くなってしまうこともあります。
考えれば考えるほど、不安がでてきます。
では、円満な相続のためにはどうすればよいのでしょう。
次回は、こうした問題を踏まえて公正証書遺言についてご説明します。
2月15日、東京では3年ぶりの積雪となりました。
バイクを日常の足としている私は、ちょっと外出したくありません。
暖かい春が待ち遠しいですね。