文子はたすき掛けにしていたバッグの片方を、外して地面の上に置いた。蓋を開けると、中には医薬品が大量に入っている。
先に鶴の首のようなものがついた容器を取り出すと、中の液体を手の平に勢いよくかけた。
「いっ…!」
レイラが思わず顔をしかめる。
「ただの水や。騒がんとき」
文子はそう言いながらもガーゼを手早く畳んで傷口に押し当てる。
「手を肩まで上げ!ナオミ言うたな。肘んとこ支えたり」
「あ、はい」
ナオミは戸惑いながらも従う。文子はガーゼを強く当てたまま手の平を凝視した。話しかけづらい雰囲気が流れ、沈黙が続く。
「止まったで」
しばらくして文子はそう言うと、血の付いたガーゼを外して傷口を確認し、新しいガーゼを当てて固定した。包帯を取り出し、流れるような動きでクルクルと巻く。
「しまいや」
文子は何事もなかったかのように荷物を整理し、再び肩にかける。
「レイ姉!」
文子が身を引くと同時に、ガクが駆け寄った。
「嫁入り前の体に傷つけちゃダメだよお!ごめんね、ボクのせいで」
「ははは」
ガクの言い方が可笑しかったのか、レイラは傷の痛みも忘れて笑った。
「ちゃんと処置したからひとまず大事ないわ。しばらくその手使わんとき」
淡々と文子が言い、付け足すように続けた。
「せやけどあんた、えらい冷静やわ。刀を洗ったのもそうやし、刃の角度も計算しとる」
「当たり前だ。自分の命を守らないと、部下の命も守れないからな」
レイラが薄く微笑んで言う。
「そう言えば!アヤコさん、だっけ?ボク、ガクって言うんだ。小学生だけど、ここの社員だよ。アヤコさんは?」
「うちはスピカの契約社員や。例の騒ぎで契約切られてもうて、今日最後の仕事やねんけど」
セルウィンがいち早く反応し、周囲の人間に目配せする。
「知っておる。星瞬株式会社の子会社であるな。今回の事件は、まことに災難であった」
星瞬の名が出て、メンバー全員に緊張が走った。
「だったら、なんで1人なの?仲間はいないの」
「はぐれてもうたんや。同じ子会社の、デネボラいうとこに行かなあかん。せやから往生しとんねん」
「そうなんだ。奇遇だねえ。ボク達も仕事で行くんだ。場所ならわかるよ」
〈おまけ〉
手をけがすると、なかなか痛いですよね。皮膚の再生が早いのか、傷は残りにくいんですがけがした時はかなりつらいです。
何するにも手は使うので、あたるたびに痛むとかあります。あと、彫刻刀とかで切っちゃうと派手に血が出て面倒ですよね。
刃で切った傷は治りやすいからいいんですけど。
前、大根切った時に手が滑って小指の爪の上からざっくり切ってしまいなかなか血が止まらず騒いだことがありました。夫が無理やり近所の大病院に連れて行ったのですが、その時にはすっかり血が止まっておりまして。
超気まずいと思いながら問診を受け、気持ちばかりに消毒だけされて帰ってきました。
今回、傷の手当てに関してはインスタグラムでつながっているtomokoさんにあれこれ聞いてしまいました。元看護師の方なのでお詳しいはずです。その意見を参考に書いたので、応急処置の流れはだいたい合っているはず。
そういえば先日、うっかり熱い鍋を触ってしまい手のひらを火傷した時は大変でした。その時は30分以上冷水に当て続けるという奇行をしましたが、結局それが良かったようです。翌日行った病院で、処置が良かったと褒められました。
炎症止めの薬を塗っていて、特に悪化してはいません。ただ少し手の皮がむけてきましたね。だいたい、傷が治っている間はこんな感じなのでしょう。レイラの手の皮も、そのうちペリペリむけてくるかもしれません。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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