「アヤコさんですよね。こないだの仕事で会って、うちに就職することになって…。クリスさん、アヤコさんのこと気に入っている様子でしたよ」

「なんですって!」

ヒナタは血相を変えて椅子を回転させる。一目でわかるほど顔が紅潮している。

「私達ファンクラブ会員が熱烈に応援してもどこ吹く風だったのに。いったいどんな泥棒猫なのかしら、そのアヤコって女は」

 

「アヤコさんにその気はないですから。というか、推しの幸せはファンの幸せじゃないんですか?」

「それは、そうだけど…」

90度動かした椅子を元に戻しながら、ヒナタはパソコン画面を見つめた。

「あら?新しいメッセージが来ているみたい。急ぎのようね」

先程の興奮が嘘のように、ヒナタは冷静な顔でマウスを操作した。

 

「そうなの…なるほどね」

「どうしました?」

「急用ができたわ。タクト、あなたも来てちょうだいね」

「えっ?」

 

タクトのパソコンにメッセージが転送される。

「異常発生しているカミキリムシの生態調査依頼が入った。生態調査班代表として、室長の出向を命ずる。なお、同伴メンバーは5人まで可とする。選定は室長の権限において一任する」

要約すると、そんな内容だった。

 

「えっとこれ……。ガクも連れて行っていいですよね」

タクトがヒナタの表情を確認する。

「もちろんよ。そもそも、今回は危険な仕事じゃないし。人手はあった方が助かるわ」

「人手がいるんなら、レイラさんとセルウィンさんにも声かけましょう。同じチームだし。あ、アヤコさんはどうしましょうか?5人まで同伴できるって書いてありますよ」

 

「…アヤコ?」

わずかな沈黙の後、ヒナタはそう呟いた。目の奥が静かに光る。

「あっ!そうか。い、嫌ならいいんです。4人いれば充分ですよね、確かに!」

「いいえ?連れて行きましょう。見極めてあげようじゃないの。その女が、本当にクリス様にふさわしいかどうかを」

ヒナタは薄く微笑んでいるが、目は全く笑っていない。タクトは冷や汗をかきながらも、ひとまずガクにロインすることにした。

 

「カミキリムシの調査?何それ楽しそう!やった、アヤ姉も一緒に来るんだって」

短い休憩時間にロインを確認していたガクが、そばにいたコウタに告げる。

「いいなあ。捕獲はするのかな。カミキリムシって人気あるよね。育ててみたいな」

コウタは楽しげに答える。

「そうだ、アヤ姉呼びに行ってくる」

ガクは嬉しそうに立ち上がった。

 

 

 

 

〈おまけ〉

カミキリムシはどちらかというと、子どもより大人受けする昆虫だと聞きます。

カブトムシなどに比べると派手さはないのですが、色や模様が多彩です。たくさんの種類を昆虫図鑑で見比べてみるのは楽しいですよ。

中には赤や緑や青など、かなりはっきりした色のものも。木を食べる昆虫なので、森に入れば見つけることは可能です。

 

 

CANVAに頼んだら、こんな黄色いカミキリムシが出てきました。黄色と黒の組み合わせは結構多い気がしますね。長い触角も特徴。これが牛の角に見えることから、漢字では「天牛」と書くことがありますよ。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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