右の道に入りかけたサーヤの体に黒い影がかかる。クリスが異変に気付き横を向くと、視界にあの巨大カマキリがいた。と同時に、サーヤが大きく跳ねる。

カマキリが前脚を伸ばしたが、わずかにサーヤの動きが速い。空振りに終わって地面に鎌を振り下ろす。

「っ!きゃあ!」

悲鳴が響いた。クリスが「しまった」と青ざめる。サーヤの咄嗟の動きについていけず、文子が振り落とされたのだ。そのまま草むらに突っ込み、ガサッと大きな音を立てる。

 

カマキリは動くものに反応する。じりじりと距離を詰めると、再び前脚を振り下ろす。

「くそっ!」

クリスは小銃を取り出し撃とうとするが、先程のショックでサーヤが何度も上下に動く。重心が安定しない中、体幹だけでバランスを取りながら狙いを定めるのは至難の業だった。長い触角の先がわずかに吹き飛ぶ。

すでに文子は持ち上げられていた。長いケープを巻きこむようにして臀部のあたりを抱え込んだカマキリは、即座に顔を近付ける。

と、文子はバネに弾かれたかのように背を反らせた。あろうことか、左手でカマキリの頭を思い切り掴む。まるで「早く食べてください」とでも言うように。

 

何が起きたのだろうか。文子の右手も一緒に動いたようには見えたが、よく分からない。分かるのは、文子が何かをしたということと、その直後にカマキリがぴたりと動かなくなったことだった。時が止まったかのように見えた。

坂を上るのに手間取っていたフィアンセが追い付く。トロットも少しの間を置いて続いた。

 

「これはどういうことだ…?」

レイラの表情が凍り付いた。石像の如く動かなかったカマキリの体が弛緩し始め、文子が鎌から外れて地面に落ちかける。

素早くフィアンセを寄せて、セルウィンが右腕だけで文子の体を受け止める。反射的にセルウィンの服を掴んだ文子は、セルウィンに抱き寄せられる形になった。

「アヤコ殿、怪我はないか」

「え?あ、ああ。平気や」

セルウィンに真っ直ぐ見つめられた文子は赤面し、目を伏せる。トロットに乗ったガクは当然、その一部始終を見ていた。タクトは後ろから覗きながら、やれやれと肩をすくめる。ややこしいことになりそうである。

 

地面に下ろされた文子に、セルウィンとレイラが駆け寄る。長いケープのおかげで、彼女の体に目立つ外傷はなかった。肩にかけていたままだった荷物も、鎌の威力を削ぐのに役立ったらしい。

「何をしたんだ?」

 

 

 

〈おまけ〉

アヤコをめぐる三角関係が四角関係になるのかちょっと気になるところですが、まあそれは置いておいて。

カマキリまた出してしまってすみません。大好きですねえこのカマキリ。

頻繁に出てくるということは、結構繁殖している可能性があるということです。外来種が強くて異常に増えてしまうことがあるのを考えると、強い遺伝子を持った人工変異種も同じだと考えていいのかもしれません。

 

 

今日はつい最近見かけたカマキリ画像を。カマキリは卵で冬越しするので、秋は繁殖のためかよく見かけるようになります。出会いを求めているのでしょうね。カマキリの婚活シーズンというわけでしょうか。

よく見てください、この画像。実は鎌の部分で眼球をゴシゴシしているのです。汚れでもついたんでしょうか。まるで猫が顔を洗っているように見え、可愛いと思った私なのでした。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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