地面にはカマキリの体が横たわっている。痙攣すらなく、微動だにしない。文子はレイラの目を見た後、顎をしゃくる…というより顔を回転させてカマキリを見るように促す。

「よう見いや。首んとこ」

レイラとセルウィンは少し距離を取りながら見えやすい位置に回る。頭と胸の間に何かが刺さっている。黒い棒のように見えた。ガクとタクトもトロットから降りて確認しに行く。

警戒する周囲をよそに、文子は怯える様子もなくカマキリに近付き、棒を引き抜く。

「それ、何ですか?」

タクトが聞いた。棒の先に光るものが一瞬見えたが、次の瞬間には棒の中に引っ込んで見えなくなる。

 

「見せよか」

文子はタクト達の目の前に立ち、棒を見せる。ただの黒い棒に見えたが、端にボタンがあり、側面に液晶画面がついている。

「毒針や」

「ええっ、毒針?」

ガクが驚いて少しのけぞった。周囲も目を丸くして覗き込む。

「ボタンを続けて2回押すと針が出る。この液晶画面をなぞって、毒の量を調整するんや。もう1回ボタン、で注入やな」

―なるほど、片手で操作できるのか。それにしても器用だな―

タクトは文子の無駄のない動きを見て思った。

「ええっ、針出たままで大丈夫?」

ガクは無意識のままタクトにしがみついている。注射を思い出して怖くなったらしい。

 

「1分間、何もせんかったら引っ込みよる。心配せんでええで。今、めいっぱいの量注入した。毒ゆうたけど、実際には麻酔や。できる限り濃縮してあるからな、ゾウくらいの昆虫かて動かれへんわ」

「ということは、麻酔が切れたら動くのか?念のため切り刻んでおくか」

死んではいないと知り、レイラが刀を引き抜こうとする。その時だった。

 

「大丈夫ですかー!」

車のクラクションが鳴る。振り返ると、1台の黄色いトラックが走って来ていた。

「山岳警備隊の者です。先程、この近くで巨大カマキリが目撃されまして。こちらの方に逃げたと…最初からこの状態でしたか?」

トラックには2人の男性が乗っていた。窓から顔を突き出し、不思議そうに倒れたカマキリを見る。

「いえ、あの…この人が麻酔を打ったんです」

タクトが戸惑いながらも説明する。

「ええ!なんて無茶なことを。ご無事ですか?」

「ああ」

文子は面倒そうに返事する。2人は慌てて車から降り、文子の様子を一通り確認した後、カマキリに目をやった。

「これは、私達に預からせてください」

 

 

 

 

〈おまけ〉

看護師として働いていて、小柄な文子。当然、身体能力は高くありません。

そんな彼女ですから、レイラのように刀を振り回すような力技は不可能。そこで文子には武器としてひとまず毒針を持たせることにしました。超至近距離でないと威力を発揮しないリスクのある武器ですが、一撃必勝、どんな大型昆虫でも当たれば確実にしとめることができます。

 

 

とはいえアナログ過ぎる毒針はいかがなものか、と思いデジタル式の毒針を考えました。まあ、正確には麻酔なんですけど毒針と呼んでいいでしょう。液晶画面で注入量を調節できるようになっています。端にはボタンがありますね。看護師らしい武器になったなあと思っています。

 

文子は身体能力が低い、と書きましたが1つだけ飛びぬけているものがあります。それが柔軟性。カマキリにつかまれても反撃ができたのは体が柔らかかったからです。伏臥上体反らしって知っていますか?あれで90度近くのけぞることができるようですよ。ちなみに私自身もこれだけは得意で、中学生の時75センチを記録しました。計測した先輩によるとトップクラスの数値だったようです。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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