緑と茶色のレトロな駅舎は、先進的な加多市(かたし)の街中ではやや浮いた存在だ。市民からは「ミヤい雰囲気がかえっていい」などと言われている。「ミヤい」というのは、最近の流行語だ。「古くていい」というくらいの意味。「雅」からきたらしい。

待ち合わせ時間10分前だが、そこまでたくさん人が集まっていない。とはいえさすがにゼロではない。社員旅行にかける気合が多少感じられた。

 

「コウタくんだ!」

ガクが嬉しそうに手を振る。同じ飼育室で働く子ども達が数人集まっているのが見えた。こういう時の子どもの結束力は強い。

―レイラさんもセルウィンさんもいないな―

タクトは周囲を見回しながら考えた。レイラが待ち合わせ時間内に来る可能性は、干した洗濯ものにカブトムシがとまる可能性より低い。そもそも、駅に集合しなくても良いはずだ。現地集合も可だとヒナタが言っていた記憶がある。

 

「来とったんか」

少し離れたところから、声が聞こえる。振り向くとアヤコだった。

「ああ、お疲れ様です」

タクトが頭を下げると、アヤコはわずかに顎を引くような会釈をした。

「アヤコさん、こっちこっち」

同じ診療室の社員だろう、何人かが固まって手を振るのでアヤコは軽く目線を投げてからそちらに行ってしまった。

 

車内では、ガクが飼育室の仲間とお菓子を見せ合いっこしながらはしゃいでいる。結局、タクトはアヤコ以外の知り合いに会うことなく電車に乗ることになった。ガクは少し離れた席にいるので孤独だが、たまには1人でぼんやり旅気分を味わうのも悪くはない。

 

車窓にたくさんの景色が流れていく。田んぼがあったり、工場があったり、トンネルに入ったりする。少しずつ太陽の光が濃くなっているような気もした。天候が変わったせいだろう。

 

「もうすぐ着くんじゃない?」

少年達が騒ぎ出した。電車内の電光掲示板に「次は 四木島前」と表示される。すぐその後に「Next Shikishima-mae」との表示も流れた。

四木島(しきしま)は、曽利国(そりこく)のやや南側にある、地続きの小島だ。休火山の島なので温泉が出るし、海の幸は豊富だし、南国のフルーツも栽培されているし、海は澄んでいて綺麗だし、古墳時代の遺跡も見つかったしで、ここ数年観光地としての任期はうなぎ登りらしい。

自動音声の案内が流れ、電車は駅に停車した。

 

 

 

 

 

〈おまけ〉

「ミヤい」は実際にある言葉ではなく、私が作った言葉です。設定が未来の話ですので、その時代の流行語なんか出た方が面白いかと思いまして。ニュアンスは「エモい」に近いのですが、平成や昭和の古い感じに情感を覚えるこの言葉より、もっと幅広い感じ。どちらかというと、明治大正の雰囲気を再現したレトロな建築などによく使われます。

 

 

これは以前訪れた東京駅。こういうのもミヤいのです。

 

 

こちらは三越前だったかと。こちらは当時の建物を保存していますが、さすがに2200年代になると明治大正っぽい建物が減り、再現した建物が増えます。こういう外観の博物館や商業施設はちょっとした人気になっているとか。

 

あとは、古民家風の建物もミヤいものに相当しますし、懐石料理や古い和歌などの伝統的なものにもミヤいは使えます。古き良き昔の雰囲気を大切にしたいという、懐古趣味が少し流行っているのですね。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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