ラーメン屋の「いたくら」は大通りにつながる脇道の手前側にある。大通りに面したコンビニエンスストアつきのアパートの壁に「らーめん いたくら」という文字と大きな矢印の書かれた看板があった。それにしたがって進むと、風に乗って豚骨スープ独特の酸っぱさを含んだ野趣に満ちた香りが漂ってくる。

 

「あ、兄ちゃん。こっちこっち」

店先に少し列ができていたがそこにガクの姿はなく、中を覗くと壁側のテーブル席に座っているのが確認できた。手を挙げてこちらを呼んでいる。

カイトも隣に座り、メニュー表を睨んでいる。iPadのメニュー表を出す店の方が圧倒的に多いが、この店はシンプルな紙のメニューだった。使い古されているのか、端が少し折れている。テーブルには、2人分の水がグラスに入って置かれていた。

 

「カイトさん、今日はありがとうございます。もう注文しましたか?」

「いや、これからだ」

メニュー表から目を離し、カイトが顔を上げる。相変わらず覇気のない顔つきだが、ラーメンの熱気のおかげなのか、多少青白さは和らいで見えた。

「遠慮せず好きなものを頼め。どうせ、ここは安いからな」

メニュー表を見ると、シンプルな豚骨ラーメンが1,900ウィングだった。港近くの店で似たものが2,500ウィングするのを見たことがある。赤字ギリギリといったところか。

 

「すみません、じゃあ豚骨ラーメン、細麺で。トッピングにチャーシューとキクラゲお願いします」

追加の水を運んできた店員に、すかさずタクトは注文を伝える。一瞬だけカイトが不思議そうな顔をした。

「ボク、豚骨ラーメン小盛りで!チャーシューとワカメつけてください」

ガクが続けて注文する。

「豚骨ラーメン細麺、トッピングにナムルと豚の角煮」

カイトは無愛想にぼそっと言い、手に持っていたメニュー表ブックエンドの内側に立てた。

 

「なんか、本当に遠慮なく頼んじゃってすみません。もらった賞金、だいぶ使っちゃうんじゃないですか?」

―ヒナタさんに勧められたとはいえ、シンプルな豚骨ラーメンを選ぶべきだったかも―ふとタクトはそう思い、カイトに軽く頭を下げた。

「問題ない。俺が欲しかったのは勝利の栄光だけだからな。面倒な業務に付き合わせた罪滅ぼしとして、こうやってお前らに施しをしてやってるんだ。ありがたく思え」

 

 

 

 

〈おまけ〉

豚骨ラーメンのお店って、独特の匂いがしますよね。脂が熟成されたかのような、獣っぽいというか酸っぱい匂いがします。母の実家が福岡なので、本場の博多ラーメン店によく行きましたが、老舗ほどそういう匂いが強かった気がしますね。

 

ターコイズ・プラネット社がある加多市(かたし)は博多のあたりを想定しています。なので、いたくらは博多ラーメンを出す店だという認識でいいと思います。

 

 

いたくらでラーメン作っているおやじさん。湯切りには独特のこだわりがあるそうです。トッピングのおすすめはチャーシューとキクラゲ。初来店のタクトがそれを知っていたことを、カイトは不審がったようですね。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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