レイラは楽しそうに笑っている。

「どうせなら、競争しないか?」

「競争、ですか?」

タクトが思わず聞き返す。

「そうさ、早い者勝ちってやつだよ。一番早く20匹集めたやつが優勝な」

「面白そう!」

ガクは乗り気のようだ。

 

―そんな遊びにしちゃっていいのか?危ない昆虫相手なのに―

タクトは少し思ったが、言い出せないでいる。

「いいんじゃないかしら。安全には気をつけて。無理はしないこと。ちょっと車に戻りましょう。捕獲用のカゴを配るわ。あと、防御用のグローブもね」

ヒナタは言い、車に積んだ荷物から必要な道具を取り出し配った。タクトは鉄板入りのグローブを外して付け替えた。手がずいぶんと軽くなるのを感じる。

 

「ガクはタクトからあまり離れないでね。ちゃんと見える範囲にいるのよ」

「えー、それって不利じゃない?」

ガクは少しむくれる。自由に探したいようだ。

「迷子になったら置いて帰るわよ」

ヒナタは駄々っ子を諭すような言い方をすると、さっさと歩いて行ってしまう。仕方なく、一同それに続いた。

 

工事現場では、耳栓をしたくなるほど物音がうるさい。ここでは近所迷惑などという概念が存在しないのだから、いたし方ないのだが。

「それがしは、ハルと一緒に事務室に待機で良かろうか」

セルウィンが小さなプレハブ小屋を見やって言う。そこに工事現場の人達の休憩所や事務室があるらしい。小屋は周囲から少し高くなった場所にあり、緩やかで長い階段が続いていた。

「いいんじゃないか?じゃあ、20匹そろえたらあの小屋の事務室に行くってどうだ。そしたら分かりやすいだろ」

レイラが言う。

「それがいいわね。あ、いいこと考えたわ」

ヒナタはそう言うと薄く微笑み、手元のスマートフォンを確認する。

 

「追加で連絡があったの。予定外の仕事だから、報奨金が出るそうよ。このグループ全体で2万ウィング」

「ええ、2万!」

瞬時にガクの目が輝いた。

「分け方は自由らしいわ。どうかしら。ここで1位になった人が、報奨金全額もらえるっていうのは」

「さすがにそれはちょっと……」

「面白そう!」

タクトが止めようとした言葉を遮って、ガクが大声をあげた。タクトが困ったように周囲の大人達に視線を向けたが、特段反応はない。

「じゃあ決まりだな。絶対に俺が2万ウィングもらってやる。大人の力をなめるなよ」

カイトが挑戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

〈おまけ〉

ずっと前からさりげなく登場している「ウィング」という言葉。この小説世界の通貨です。

日本列島が複数の国に分かれている世界ですが、この通貨は日本列島内の共通通貨。利便性のため維持されている通貨です。ユーロみたいなものですね。

 

 

昆虫をテーマにした小説なので、昆虫といえば羽、というところからこの名称にしました。ただ、通貨のイメージに使われているのは鳥。1万ウィング紙幣の鳥はアオバトです。日本にいるハトの1種ですよ。紙幣の種類によっては、スズメなども登場するようです。

 

ちなみに、通貨の価値はインフレによって下がっているよう。なので、1万ウィング=1万円ではありません。円の半分くらいの価値しかないというような認識で考えてもらえればと思います。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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