厚みのある頑丈そうな体。黒に近い灰色。5センチくらいの体長。それを優に超える長い触角。それに……。

「あれ、白くないじゃないか。筋は入っているけど、これ黄色だろ。シロスジカミキリじゃないんじゃないか?」

タクトはカミキリムシの体を見つめながら言う。

「違うよ兄ちゃん。シロスジカミキリは、生きている間は筋が黄色いんだ。でも死んじゃうと白っぽくなるから、シロスジカミキリって言うんだって」

ガクが答える。

「なんで死んだ状態を基本にするんだ。失礼な話だな」

 

ぶつぶつ言うタクトのそばで、ガクがカチリとカウンターを押した。

「今回はボクが先に見つけたからボクが押したよ!」

得意げに言う。

「いやあ、結構久しぶりに見たかも。波都国(はとこく)にもいたけどね」

ガクが木の幹に顔を近付け、シロスジカミキリの目を見ようとした時だった。

「危ない!」

タクトがガクの腕を引く。シロスジカミキリが前脚と中脚を浮かせて立ち上がるような姿勢をとった。ガクの髪の先が顎に引っかかり、切られて風に飛ぶ。

「びっくりしたあ」

タクトに引っ張られて幹から離れたガクは、威嚇の体勢を崩さないシロスジカミキリを見つめる。

 

「あっ」

いきなり強風が吹いた。体を浮かせていたシロスジカミキリはあっさり飛ばされて地面に落ちる。

「ひっくり返ったな。このままで大丈夫か?」

「あ、問題ないよ兄ちゃん。見てて」

ガクの言葉に従いそのまま観察すると、その長い触角が動いた。仰向けになったシロスジカミキリは触角で体を持ち上げ、そのままくるりと回転する。

「なるほど、器用だな」

タクトは感心する。

「カブトムシとか、1回ひっくり返っちゃうとなかなか元に戻れないやつもいるもんね。それはそれで可愛いけど」

 

同じ頃、数百メートル離れた先に文子とカイトがいた。

「ほんま、何回やらすねん。ええ加減にしいや」

文子は腹の虫が収まらぬ様子である。

「仕方ない。ここは出稼ぎの外国人労働者がほとんどだ。応急手当なんてできるわけがない」

カイトが淡々と答える。

「全く…」

止血用のガーゼを袋から取り出す。すでにいくつかの空き袋がデスクの上に置かれていた。東南アジア出身とおぼしき男性が、拙い発音で「スミマセン」と言う。

カイトは立ち上がった。

「アヤコの仕事をこれ以上増やせないな。駆除に行ってくる。ハル、お前も来い」

 

 

 

〈おまけ〉

昆虫の中でも硬い羽を持つ甲虫には、死んだ後も生きたままの輝きを残すものと、残さないものがあります。シロスジカミキリは残さないタイプと言っていいのかもしれません。生きている時の黄色い筋の色が消え、白くなってしまうからです。タクトの言うように、死んでからの姿を基準に命名するのは少し変ですよね。

 

レイラの祖先、ブラッドフィールド家が代々守り神としているハンミョウは、死ぬと光沢が失われるタイプ。生きている時は極彩色のキラキラが間近で見るとすごくきれいです。あれが生きている間だけの輝きと考えると価値を感じますね。逆に、タマムシは死んだあと羽根だけちぎれてキラキラ光りながら残っていることがあります。たまに市街地でも見かけますね。

 

 

生きている間は木の高いところにいるので、なかなか見つかりません。写真では矢印の先にいるんですよ。分かりづらいですかね。

 

後半では、アヤコが手当てに追われている様子。出勤1日目からこき使われているとは思っていなかった様子で、怒っていますね。カイトと相性が良くないようですが、大丈夫でしょうか。

 

 

我が家も夫と娘が指をけがしているので、しょっちゅう手当てをしています。ガーゼはまだいいのですが、絆創膏の減りが早いです。ストックしてはいるものの、これもあっという間になくなるでしょうね。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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