蓋が開くにしたがって、蛹の姿がわずかに見えてくる。普通のアゲハチョウの蛹とさほど姿は変わらないのかもしれない。そこにいる全員が息をのみ、視線を集中させた。

と、文子が急に蓋を閉める。

「どうしたんだ」

レイラが訝しげに見やると、文子は視線を落としたまま答えた。

「羽化、しとる」

「ええっ?」

ガクが身を乗り出して無理に覗き込もうとする。タクトが袖を引っ張ってとめた。

 

「ええか。落ち着いて見いや」

文子が蓋の開け口をタクトのいる方向に向けた。もう1度薄く開くと、あの輝く青緑色が視界に入った。箱の側面に1頭、別の側面に1頭、蛹につかまったままのものが1頭。3つの蛹は全て抜け殻になっていた。

全員が中身を確認すると、文子はそっと箱の蓋を閉めた。

「…それ、どうする気だ?」

レイラが聞く。

「ほんまは、カイコと交配させる予定やったんや。交配いうても、遺伝子を無理矢理組み込むらしいけどな。せやけど、カイコ没収されたら意味あらへん。あんたらに言うてケイトーに引き渡せば良かったんかもしれんけど、そこまでの義理はないかと思うて」

「それでずっとふさぎ込んでいたんだね」

クリスだけは、優しく微笑んでいる。

 

「で、どうするの?野生動物だから飼育は禁止されてないけど」

「うちが死ぬまで見届ける。どうせ死ぬまで長くあらへん。世話し終えてからあんたらの会社に行く、それでええやろ」

文子の目には、強い意志が宿っていた。

「ええっ、ずっと家の中で飼うの?かわいそうじゃない?離してあげようよ」

ガクがこらえきれないように言った。文子は強く首を振る。

「あかん。外に出てみい。カマキリに捕まるで。鳥に食われるかもしれん。そないな危険な場所に、この子らを離すわけには……」

文子の声は涙でくぐもっている。

 

「それはダメだよ」

きっぱりとガクが言った。

「ボクも、昆虫飼ってたんだ。カブトムシのカブ太とカブ子。幼虫から育てててさ。ずっと飼っていたんだけど、兄ちゃんに言われて離した。かわいそうだろって。外の世界を見ることも大事だと思って」

一拍置いて、セルウィンが口を開いた。

「アヤコ、そなたの気持ちも分かる。我が子と思って世話をしたのであろう。外の恐ろしさを思えば出すのが怖いのも仕方あるまい。だが、外には仲間もいるのであるぞ」

 

文子の涙が、長いケープにぽたりと落ちた。

 

 

 

 

 

〈おまけ〉

前回紹介したアゲハチョウの蛹。数日後に無事羽化しました。家族で出かけていた日で、羽化する瞬間が見られなかったのが少し残念です。家に帰ると、蛹にとまったまま羽を広げ乾かしている最中でした。

 

 

その後、ひらひらと部屋を飛び回り始めてしまい。慌てましたね。でも天井付近にとまってくれたので、ビニール袋でそうっと捕獲して夕闇が深くなっていく空に離してあげた記憶があります。

 

 

あっという間に遠くへ飛び小さくなってしまって、少し寂しかったですね。それからというもの、アゲハチョウを見るたびに「あの子の子孫かな」などと思います。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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