体は先程見たものより一回り小さい。オスだろうか。注目すべきはその体の色。ほのかに輝く青緑色には、どこか見覚えがあった。

「そういうことか。よく考えたな」

レイラがつかつかと歩み寄り、成虫を手に乗せる。その瞬間、タクトの脳裏にある光景がよみがえる。

 

薄暗い中でもはっきりと光っていた、レイラの足の爪。褐色の肌に青緑色が映えていた。

「カイコにアオキンアゲハの遺伝子を組み込んだんだな?」

見据えられた老人は、歯嚙みをしてこちらを睨んだ。

「…どうする気ですか、それを…」

ようやっと出したその声は、これまでの淡々とした様子からは想像できないほど震えている。

 

「悪いが、こちらは全て処分だ。石灰の空き袋が落ちているな。そこに入れて踏んで潰そう。念のため、その後焼却処分だ」

「莫迦な!」

老人は反射的に伸ばした手を、クリスが掴む。

「無理はいけないね、じいさん。多勢に無勢だ。大人しくしていてもらおう」

レイラがてきぱきと指示を出し、ガクとタクトが手分けして作業する。

 

幼虫を踏み潰す時のぐにゃりとした感覚に、タクトの胸はちくりと痛む。袋の口を押えているガクの目は、涙でわずかに潤んでいた。人工変異種である以上は駆除しなくてはならない、そんなことはすでに嫌というほど教えられてきたけれど、やはり引っかかるものがあるのだろう。相手は人間の手を借りねば生きていくことも難しい、無垢で脆弱な虫達なのだ。

 

焼却炉に続く扉のドアノブはガムテープでぐるぐる巻きにされていた。―古典的な方法だな―そう思いながらタクトが力ずくで引きはがす。

「なんでわざわざカイコとかけ合わせたんだろ?」

ほどなくして紙袋は炎をあげて燃え始める。ガクが視線を上げてレイラに尋ねた。

「カイコは飛ばないからだろう。野生のアオキンアゲハは目でまともに追えないくらい速く飛ぶ。管理が難しいんだ」

「そっか。下手したら逃げちゃうかもしれないしね」

「あとはリスクヘッジだな。クローンを使えば個体差による品質のブレは防げるが、羽化不全や病気による死滅は避けられない。万が一うまく羽化できなくても、カイコなら繭の利益で損失を回収できる。よく考えた、と言ったのはそういうことだ」

「どこまでも、お金のためなんだね。人間が儲けるために、命をいじるなんて」

焼却炉の周りに煙が立ち込める。炎は、ほとんど紙袋の形を残さないほど燃え広がっていた。

 

 

 

 

〈おまけ〉

アオキンアゲハの羽の青緑色は、当初アオスジアゲハに近いものを想像していました。そのため、最初はアオスジアゲハの突然変異種という設定だったのです。名前もなんとなく似せております。

 

 

アオスジアゲハは淡い青緑色の筋のある羽を持ち、飛んでいてもよく目立ちます。でも、調べてみるとこの筋部分には鱗粉がなく、ただ透き通っているだけなのだと判明しました。鱗粉をとるために飼う、という設定なのでこれだと使えません。

そのため、急遽光沢感のある鱗粉のあるアゲハチョウ、ということでカラスアゲハやミヤマカラスアゲハの変異種にしようという考えに落ち着きました。

 

この光沢のある青緑色が羽全体に広がっていたとしたら、さぞかし美しいでしょうね。飛ぶ宝石と言えそうです。海外にいるモルフォチョウが、それに近い感じはしますよね。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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