ギギ、と小さく擦れるような音を立てながらドアが開く。中は薄暗い。セルウィンが壁を手で探るとセンサーが反応したのか、パッと明かりがつく。

木の葉の香りが、先程よりも強く漂ってきた。それもそのはず、大量の桑の枝が壁に立てかけてあったのだ。他にはバインダーに挟まれた資料などが入った金属製の棚と小さなデスクや農具。それらはなるべく端に寄せてはあるが、この部屋自体が狭いので窮屈に感じられる。

 

「だから、やめてほしかったんですよ。ここはただの物置です。悪天候に備えて、桑の葉をストックしているだけなのに」

タクト達の後ろから、部屋に入って来た老人が呟いた。

「もう、気が済みましたか?そろそろお引き取り願いたい。契約社員が軒並み解雇されて、忙しいものですから」

「さようであったか。手間を取らせて申し訳ない。クリス、もう良いであろう。参るぞ」

セルウィンが言うが、クリスは納得していない顔で首を振る。

 

「タクト、あの桑の枝を倒してくれ」

「え、本気ですか?」

「やるんだ」

 

タクトは枝に手をかけたが、数本まとめるとずしりと重い。らちがあかないと気付き、仕方なくグローブの甲を当てて横に払ってみる。パキリと一部の枝が折れた後、将棋倒しになった。ガサガサと大きな音を立て、砂埃が舞い上がる。

枝の後ろに白い布がかけてあった。絹のカーテンのようだ。なめらかに光を反射して輝いている。その肌触りを確かめるように、タクトは布の端に手をかけた。

 

「待ってください!」

老人が走り出そうとしたが、レイラが腕を広げて止める。寄せられたカーテンの奥には、奥行きわずか10センチほどの棚が隠されていた。いくつものトレーがあり、そこにカイコの幼虫がひしめいている。

「なんだ、まだカイコがいたんですね」

タクトは拍子抜けしてため息をついた。

「ねえ兄ちゃん。なんかこの幼虫の色、少し違わない?」

後ろからひょっこり覗いたガクが、とぼけた調子で言う。

「ライトの色のせいだろ」

「いや違うよ。なんかうっすら青いもん。突然変異かな」

 

言われてみれば、確かにわずかだが青みがかっている。落ち着いてよく見ると、奥のトレーにいくつか繭があり、そちらもわずかに青く感じられた。中途半端に開いていたカーテンを目いっぱいに広げてみる。端に1匹だけ、羽化したばかりの成虫がとまっていた。

 

 

 

 

〈おまけ〉

カイコには、自然と突然変異した変異体というものも存在します。

幼虫に色がついていたり、模様がついていたりします。繭に色がつくこともありますよ。

 

 

こちらはフリー画像ですが、多分これも変異体ですね。なので、ブルーの繭とかも探せば見つかるのかなあと思います。

色が最初からついていれば、染色はしづらいですが、逆に考えると染色せずそのままの色を生かせますね。

繊維の染色は水質汚染につながると聞きますから、こういうのをうまく利用できるといいのかなとも思いますよ。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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