「そう言えば、さっきはごめんね。怖い目にあわせてしまって」

「あんたのせいやあらへん」

「でも、サーヤが暴れなければあんなことには」

「あの子がうまく逃げんかったら、うちらもっと危なかったで。感謝せな」

「やっぱり優しいんだね」

クリスが微笑む。と、にわかに背後が騒がしくなった。

 

「クリスさん!文子さん!なんか片付けていたらゴミ出ちゃったので、ついでにこれ燃やしてくれませんか?」

タクトが、紙や枯れ葉を箱いっぱいに入れて抱えながらやってきた。

「ナオミ、よろしく頼むぞ」

「はい、任せてください」

レイラとナオミの声も玄関から聞こえる。

 

「ナオミは何してるの?」

クリスが聞いた。

「幼虫の仕分けと梱包が終わったそうです。トロットでひとっ走り、尾根のてっぺんの郵便局まで届けるって」

「へえ」

「ここまでやっといて、送るのは現地頼みなんやな」

 

「あ、卵燃やすの終わりました?」

タクトが焼却炉に近付いて言う。

「ほとんど終わっていたけど。君があれこれ持って来たから終わらないよ」

クリスが皮肉っぽく言う。

「はあ。すみません」

「冗談だって。紙燃やすの、ほったらかしでいいかな。そろそろ飽きてきた」

クリスが立ち上がって伸びをする。

 

「あれ」

不思議そうに、クリスが何かに目を向けた。

「勝手口なんてあったんだね。気付かなかった」

「本当ですね。あれ、変だな」

タクトは古ぼけたドアのついた勝手口と、その周囲を見回した。

 

「何が?」

「ここです。勝手口の窓。光を入れるためのものですよね。これ自体は珍しくないですけど。ほら、わざわざ隠してるんです」

見上げると、ドア上部の窓には鉄の板がはめられていた。目立たないようドアと同じ色のペンキが塗られている。

「防犯対策かな。横にも採光用の窓があるけど、何かはまっているね」

クリスも不思議そうな顔をする。

 

文子は黙ったまま勝手口のドアに近付いた。ドアノブを掴んで開けようとする。

「あかん」

「鍵、かかってますか?」

「いや、ドアノブ自体が動かへん。うんともすんともや。裏で固定されとるんやろか」

「うーん、ここはひとつ、確かめてみる必要がありそうだね」

クリスが言うと、3人は顔を見合わせ頷いた。

 

 

 

〈おまけ〉

カイコの幼虫が食べるのはクワの葉です。それ以外は食べません。

偏食にもほどがあると思う人もいるかもしれませんが、昆虫の中にはこのくらい食性が偏っているものも珍しくないのです。

特に、植物を食べる場合はその傾向が強くなります。なぜだかわかりますか?

 

植物は動けないため、外敵から身を守るためにいくばくかの毒をもっていることが普通です。どんな植物でも微量の毒があると考えていいでしょう。野草を思い出してみてください。アク抜きしないときついほど、苦みやえぐみがあるものが多いですよね。

そういった毒に対応するため、昆虫は特定の植物の毒に対して耐性をるけるのです。でも、植物が持つ毒はそれぞれ種類が違います。全ての毒を克服するように進化するって効率が悪いですよね。

 

 

なので、クワだけならクワ、アブラナだけならアブラナ、と食べる植物を限定することにより一極集中した毒の耐性だけで生きていけるようにしたわけです。

写真は近くに生えているクワの木の葉。クワは低木で、切れ込みの多い葉をつけます。小説の中にも低木が生えている描写がありましたね。あれは全部クワの木だったのです。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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