「あ、そうなんですか」

タクトが少しほっとした表情で言う。

―応援が来るのはありがたい。少し楽になるかもな―

そんなことを考えているタクトの耳に、ケンジの声が飛び込んでくる。

 

「…をかけてすまない」

「え?」

「迷惑をかけてすまない、と言ったんだよ。僕が行方不明にならなければ、そしてこの会社に厄介にならなければ、もっと自由で気楽な毎日があったんだよね」

「そんなことないよ、父さん。なんだかんだで楽しくやってる。新しい国でいろいろな経験、きっとこれからの人生で糧になるはずだから」

「お父さんは、この会社で好きな研究が続けられるんでしょ。だったら、気にしなくていいよ。ボク、新しい友達もできたし!」

タクトの言葉に続けて、ガクも答える。

 

「そうか…。ガク、タクト」

ケンジの顔が少し曇った。

「ん?何」

ガクは嬉しそうに笑う。

「ああ、まああれだ。違う環境は疲れるからな。体に気をつけてくれよ」

 

見えなくなるまで手を振ってくれる社員達にやっとのことで背を向け、年無国(ねむこく)行きの便に乗り込む。瀬戸内海は凪いでいて穏やかだ。頬をなでる海風が心地いいくらいだった。

手続きを済ませ、年無国に上陸する。

 

「ここから、どうやって行くんでしたっけ」

タクトが聞くと、レイラが答える。

「バスを乗り継いで南下するんだ。1本じゃ到底辿り着けないから、2回乗り換えすることになるな」

それを聞いて、ガクは渋い顔をした。

「うええ、そんなに乗るのー?ボク、山道のバス苦手…」

タクトがガクの頭を撫でる。

「よしよし、大丈夫だガク。こんな田舎のバスなんて混んでないからな。窓開けて、一番前の席に座りな」

 

「ヘリコプターとかで一気に行けたら楽だよな。予算的に無理だが。でも、今日は1本乗ったら旅館に泊まるぞ。予約してあるから」

レイラが言うと、ガクはほっとした顔で小さくガッツポーズした。

山道は思ったほど急でもなく、バスの運転手は愛想よくいい人そうだ。

―警戒心が強い国と聞いていたが、あくまでも国全体の話で、国民は違うのかも―

タクトは思った。

 

それでもガクは、船旅の疲れもあってかかなり酔ったようだ。山の中腹あたりで降ろされると、新鮮な空気を思い切り吸い込む。と、目の前を黒光りするチョウが横切った。

「ん?うわあきれい」

バス酔いの気持ち悪さも忘れて、ガクはそれを見つめる。チョウは素早く飛んで森の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

〈おまけ〉

私はチョウの中でもアゲハチョウの仲間が好きです。タテハチョウの中にも綺麗なのはたくさんいますが、アゲハチョウの方が飛ぶことに特化したような、空気抵抗少なそうな形をしているところが好きなんですよね。

 

黒っぽいアゲハチョウ、いろいろ種類がいますよね。キアゲハとかアオスジアゲハは特徴的なんですが、黒っぽいタイプのアゲハチョウはいくつか種類がいるので見極めが難しいです。

 

 

これとか、近所で見かけたのですけどよくわかりません。クロアゲハかなと思ったんですけど、羽を開いた時けっこう光沢感があったのでカラスアゲハなのかもしれません。

 

 

こちらは去年見かけたもの。暗いところで撮ったので、羽の細かい模様がよく見えませんね。

 

 

日の当たるところではかなりキラキラしていたので、もしかしたらミヤマかもしれませんが、市街地ですから違うかも。じっとしてくれないと判別が難しいです。

 

でも、山深いところで見るミヤマは宝石のように綺麗で、しかもビュンビュン風を切って勢いよく飛ぶのですぐ分かります。山に行って見つけられたらちょっとラッキーですよ。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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