「…もう、ミクリヤさんの家に電話とかしていいのかな?決まったことだけでも伝えないとね」
「いいと思うよ。あ、でも電話壊れてるんだった。こないだカブロウがぶつけちゃってさ」
コウタの視線の先にある電話には、手書きで「故障中」と記してある裏紙が貼り付けてあった。
「えええっ?どうしよう」
「廊下に共用の電話機あるから、それ使えばいいよ」
うろたえるガクに、コウタが笑って答えた。
ガクが部屋から出て行った後、コウタはふと気付く。
「そういえば、クリスさんのデータ入力してないじゃん」
コウタが素早く入力を済ませて再度診断ボタンを押すと、クリスはあっさり2位に表示された。飼育歴も住環境も経済力も申し分ないからだ。
「あーあ。でもまあいいか。最初から考えてなかったみたいだし」
コウタは含み笑いをして、そっとパソコンを閉じる。
ガクが電話をかけると、呼び出し音が3回鳴り切らないうちにつながった。待ち構えていたのだろうか。
「こんにちは。えーと、先ほどはありがとうございました」
ガクがたどたどしく挨拶すると、男性の声が聞こえる。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
「それで、えっと、クワキチをそちらにぜひ、と」
「…本当ですか?」
受話器の向こう側の声は弾んでいる。通話口をふさいで自分の母親に話しかけているらしく、かすかに声が漏れ聞こえるのがわかる。
「まずは1週間トライアル、ということで。それで大丈夫なら正式譲渡です」
一通り説明を終えると、ガクは受話器を置いてふうと息を吐いた。大人に電話すること自体があまりないため、どうしても緊張してしまう。
その時、後ろから甲高い足音が聞こえる。振り返ると、音のする方にヒナタが立っていた。
「あら、ガク君。なんでそんなところに」
ヒナタが不思議そうな顔をする。
「ああ、ちょっと電話する用事があって」
ガクは答えた。
「ちょうど良かったわ。今から呼びに行こうと思っていたところだったの。悪いけど、一緒に事務室に来てくれる?」
「え、何?」
「後で話すわ」
言われるがまま5階に上がる。タクトが神妙な顔をして座っていた。すでに何かしら聞かされた様子である。
「新しい仕事が入ったわよ。いつものチーム編成で行ってもらうことになったわ」
「それで、…どこに行くんでしたっけ?」
タクトが静かに言う。
「年無国(ねむこく)。一応、この国の隣国ね。国交は断絶しているけど」
〈おまけ〉
「クワキチ譲渡会編」はこれでだいたい終わり。そろそろ新しい話に移行します。
そもそも年無国ってどこだっけ?という人がほとんどのはず。年無国は、話の中に登場するのは初めてです。
日本列島は複数の国に分かれてしまっている設定。2023年にあげている地図画像を見ると、「年無国」の表記が確認できますね。
今でいう四国全体が年無国にあたります。
他にもいろいろな国がありますが、すでに話の中で訪れた場所と、名前だけ登場した場所があります。波都国(はとこく)、亭斯国(てしこく)、伊女国(いめこく)、曽利国(そりこく)は主人公2人が訪れたことのある国。希羅国(きらこく)、由日国(ゆひこく)は名前だけ登場します。
約250年後の未来を想定して書いているので、こんな設定になっております。
未来なんだから電話機も少し変わっているかなあと思ったのですが、さほど突拍子もないものは思いつかず。ただ、大きめの液晶画面とかあるのにしようと思い、検索して似たの探してまねして描いてみました。
アングルおかしいですが許してやってください。
コードレスなんですが、カブトムシのカブロウが台に頭をぶつけた拍子に床に落ち、激しく画面が割れています。
部品交換とかで直るといいですね。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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