「簡単な日本語なら話せるって。直接話しても大丈夫かもね」

クリスが続けて言う。ガクはやれやれと肩を落としたが、気を取り直して話しかけた。

父親はリチャード・キッドソンという名前らしい。アメリカから家族で移住して3年になるとのことだった。

「家で、カブトムシを、かっています」

たどたどしく話すと、スマートフォンの画面を見せる。人工変異種のカブトムシが待ち受け画面にアップで写っていた。

 

「ヤマトっていうのよ。お友達をつくりたいの!」

姉妹のうち年上の子が前のめりに言う。皮肉なことに、子どもの方が日本語は達者だ。年は7、8歳というところか。

「カブトムシの友達に、クワガタを…?」

ガクは軽く首をかしげる。

「このご夫婦、外資系企業で働いているらしいよ。共働きだから、ペットに留守番させることが多いみたいだね」

横からクリスが口を挟んだ。と同時に、今書き終えたらしい連絡先をバインダーごと手渡す。

 

「1匹だと心配だってことだよね。なるほど」

ガクが一生懸命にメモを取っているのをよそに、クリスは早口で父親のリチャードに話しかけ、軽く会釈して去って行った。

姉妹がずっとクワキチに夢中だ。しきりに眺めては話しかけている。「友達をつくりたい」という話だったが、本音は「カブトムシとクワガタ、両方飼いたい」というところなのかもしれない。

連絡先を書いて去っていくキッドソン家族を「ありがとうございましたー」と軽く手を振って見送る。

 

先程の喧騒が噓のように、クワキチの周囲は静かになった。ガクはケージの横のパイプ椅子に腰かける。さすがに立ちっぱなしで疲れた。考えてみれば昼食も食べていない。

 

「お疲れ。一段落したみたいだね。売店でパン買ったから食べない?」

コウタがやって来て、いくつかパンが入った紙袋を手渡す。

「わあ、ありがとう!昼ご飯買いそびれてたから助かったよ」

ガクはソーセージをはさんであるコッペパンを手に取り、嬉しそうに頬張る。

「慣れてないから疲れるでしょ。向こうの控室で休んでも大丈夫だよ。何かあったら呼びに行くし」

「大丈夫、ボクそこまで疲れてないから。お腹は減ってたけどね」

「でももうあんまり人来ないかもね。熱心な人はだいたい早めに来るんだ。先着順とは言ってないんだけど」

 

その言葉通り、15時を過ぎるとほとんど人は来なくなる。最後の客が来たのは、15時半を少し回った頃だった。

 

 

 

 

 

〈おまけ〉

私は英語がほとんど話せません。よく「話せそうだよね」と言われますが、受験英語の知識しかなく、書いてあるならまだなんとなく分かっても、発音されると意味不明。最近はその受験英語の知識すら記憶の彼方です。

 

そんなわけで、新婚旅行の時は帰国子女で英語ペラペラの夫に任せきりでした。たまに、横でうなずくくらい。そんなわけなので、空港で尿意をもよおしトイレに行きたくなった時も「トイレ」を英語でどう言うのか分からずしきりに“Where is …”をくり返していましたね。ああ恥ずかしい。

 

 

そんな調子なので、アメリカ人の何たるかも分かっていないのですが、一応女の子だけ描いてみました。確か洋画にはこんなのが出て来るよね、的なざっくりとしたイメージです。いつもクマさん持っているとか、勝手なイメージですみません。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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