淡々と話すセルウィンを見て、彼女は苦笑した。

「他人行儀だな。しばらくぶりに再会したのに、握手の1つもないのか」

そう言われて、セルウィンは無表情のまま手を少し前に出す。

「いいよもう。なんか面倒くさい」

「はじめまして、クリスティーヌさん。オレ、タクトって言います」

「クリスでいいよ。嫌いなんだその名前。長ったらしくて」

 

風が吹き、少しはにかんだクリスの顔に光がさした。アッシュゴールドの髪に、グレーと緑の混じった瞳。肌の色は赤みがかった白で、頬に小さなそばかすが微かに浮いている。

―色合いの美しい人だ―タクトはそう思った。

「あと、こいつはサーヤ。俺の相棒だ」

クリスはかたわらのオンブバッタに手をかけて言う。

「それ褐色型?」

やや遠くから、ガクが言う。

「そうだよ。じゃじゃ馬なんだけど、そこが可愛いんだ」

 

「今日はいかなる用でここに来られた?伊女国(いめこく)で研修を受けていると聞いていたのだが」

「終わったんだよ研修が。それだけの話だ。やっと解放されたよ全く」

クリスは顔を傾けてセルウィンを斜め下から覗き込むような体勢をとっている。なんだか距離が近い。同期とはいえ、普通はもう少し遠慮するものではないだろうか。

「あの」

タクトが2人に声をかける。気になったことを、思い切って聞いてみることにしたのだ。

「ひょっとしてお付き合いとかされているんですか?お2人は」

 

セルウィンは依然として無表情のままだが、クリスの顔は一気に青ざめる。

「やめてくれよ、気持ち悪い。こんなやつと誰が付き合うんだ。オンブバッタ一筋の変態野郎だぞ」

「…さよう。それがしの恋人はフィアンセだけであるゆえ」

そう言って、首にかけていたロケットペンダントを引っ張り出した。表面にオンブバッタの刻印がある。中にはフィアンセとおぼしき写真。全身写真と顔のアップの両方がある。さすがにこれには虫好きのガクもドン引きの表情だ。

 

「ああ、邪魔して悪かったな。そういうわけでさっき帰って来たから、これからまた会社で会うだろう。じゃ、またな」

軽くセルウィンに向かって手を挙げ、ガクとタクトに向かって微笑むと、ひらりとサーヤに跳び乗る。手綱を握ってセルウィンを見下ろしながら言った。

「サボってないでちゃんと仕事しろよ」

わずかに眉をひそめたセルウィンからは見えないように、タクトはひっそりと笑いをかみ殺した。

 

 

 

 

〈おまけ〉

セルウィンの同期、クリスティーヌ(以下クリス)が本格登場しましたね。

最初の構想ではもう少し後に出すつもりでしたが、キャラが割と立っているのでそれでは惜しいと思い、登場シーンを前にもってきました。

これからどんなふうに関わってくるのか、楽しみですよね。

 

さて、主要キャラクターの推し昆虫について。主要キャラクターにはそれぞれ推し昆虫がいるのです。ガクがナナホシテントウ、タクトがオニヤンマ、レイラがハンミョウでした。

 

セルウィンの推し昆虫は、もちろんオンブバッタです。オンブバッタの刻印の入ったロケットペンダントを常に身に着けているという設定。昆虫好きの私もいささか引きます。

 

 

中にはもちろんフィアンセのベストショットが。うーん、確かに可愛いんですけど。こんなの持ってたら彼女なんてできませんね。整った顔立ちなのにもったいないです。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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