タクトはパソコンの画面を凝視しながら、さかんにキーボードを打っている。

巨大アリを駆除してから数日。いつの間にか、長い夏は終わりかけていた。

ガクは今日から、地元の学校に通うことになった。暑いうちは午前中だけで、少しずつ体を慣らしていくのだそうだ。

 

「エミリアやアンジェラと同じ学校なんだって!エミリアとは1学年しか違わないから、教室近いらしいよ」

昨日、ガクが興奮気味に言っていたのを思い出す。レイラの妹達と一緒なら、心強くていいだろう。おおむね安心したが、ガクが余計なことをしないか少し心配でもある。

 

タクトのほうは、8月の始めに1通、担任の先生から暑中見舞いを兼ねたメールが来ただけだ。それでも気にかけてもらえるのは嬉しくて、丁重に返事をしておいた。

もう、曽利国(そりこく)に来てから1か月以上が経つ。父親を探すならここにいるのが一番だと分かってはいるが、まだ情報らしきものは入って来ない。

―一体、いつまでかかるんだろう―とタクトは気が遠くなる思いでいる。

 

「進み具合はどう?表計算って、目が疲れるわよね。お茶、こっちに置いとくわ」

ヒナタが優しい笑顔で話しかけてくる。

「あっ、すいませんわざわざ」

「いいのよ、自分のをいれるついでだから」

ヒナタの手元を見ると、盆の上に急須ともう1つの湯飲みがのせてあった。

 

「そうそう、明日からの仕事の話は聞いているかしら?」

ヒナタは空いたデスクに盆を仮置きすると、思い出したように言う。

「明日?いえ」

「観光案内の仕事が入ったんですって。ガイド役として、レイラさん達と同行して欲しいの」

「ガイド?まだ全然ここの地理とか分かっていないんですけど」

「あなたはついていけば大丈夫よ」

ヒナタはこともなげに、にっこりと微笑む。どうも、この国の人は全体的に大雑把だ。国民性なのだろうか。

 

「昼過ぎ、向こうが挨拶しに来るみたいなのよ。ずいぶんと礼儀正しいのね。あなたも時間があったら会ってあげて」

言われた時間に1階の入り口に立って待っていると、少し遅れてレイラが来た。3分遅れだ。もう慣れたが、相変わらず時間にルーズである。

「おっ。タクトもう来てたのか。早いな」

「別に早くないですよ」

答えるタクトの体に影がよぎる。気配を感じて振り向くと、そこにはセルウィンが立っていた。手綱を持ちフィアンセを曳いて来ている。

「お待たせ申した」

「てか、なんでいるんですかあ!」

 

 

 

〈おまけ〉

現実世界ではそろそろ夏休みが始まる時期ですが、小説の中では長かった夏休みが終わりました。

去年の秋から連載しているので、「やっと終わったんかい」という気分です。

小学生のガクは学校に通いながら仕事をすることになります。

 

少子化が進んで子どもが少ないので学校の規模は小さくなっています。

違う学年のエミリアやアンジェラとも、体育の授業などで一緒になることがあるそうです。

ガクの小学校生活、楽しげでいいですね。

 

 

セルウィンのパートナーであるフィアンセを描いてみました。

もちろん、騎乗用に改良された人工変異種です。

自然界に逃げても子孫を残せないよう、産卵管に手術を施しているそう。

昆虫の中では、唯一のメインキャラクターと言っていいでしょうか。

セルウィンいわく「オンブバッタ界随一の美女」だそうですよ。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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