髪の色は白に近い金色というところか。光が弱くてよく見えないが、瞳はおそらく青みがかっているのだろう。
「そなたの刀。その鞘に宿る神に詫びねばな。アリジゴクの巣に捕らわれるなど」
ゆったりとした重々しい口調で、男が呟いた。
「まあ確かにな。アリを食うハンミョウが、アリジゴクに捕まるなんて。考えてみればおかしな話だ」
レイラが苦笑した。
「その鞘の絵、ハンミョウだったんですか。カミキリムシかなって思ってました」
タクトが言う。
「失礼な奴だな。我が家の守り神なんだぞ」
「ねえねえ、それよりこの人誰?もったいぶらないで教えてよ」
「ああ」
レイラが男の方に目を向ける。
「それがし、セルウィン・アロン・エークルンド、と申す。名乗りが遅れ失礼つかまつった」
「そそ。あたいはセルウィンって呼んでる」
「長い名前なんだねー。大変だから、セル兄って呼ぼうっと」
「……何か、話し方が古臭くないですか?」
タクトが困った顔をしながら言った。
「時代劇とかの見過ぎなんだよ。悪気はないから許してやってくれ」
レイラが苦笑しながら答える。
「さてもうひと仕事して参るか。頼むぞ、フィアンセ」
そう言うや否や、セルウィンはオンブバッタの体を回転させた。大きめのポニーくらいの大きさで、鞍や手綱らしきものも装着している。
ムチの持ち手の端で軽く胴体を叩くと、目にもとまらぬ速さでオンブバッタが跳んだ。そのまま再びらせんを描き巣の底に舞い降りる。
「えっ、大丈夫なの?」
ガクは目を見開いてあっけにとられた。
ムチが伸びる。アリジゴクは砂をかけようとするが、オンブバッタの強靭な脚力はそれをものともしない。素早くよけて、グルグルと巣の底を舞った。ムチが砂を巻き上げ、アリジゴクの顎にからみつく。
と同時に、オンブバッタが大きく跳んだ。ほどなくして巣から抜け出し戻って来る。アリジゴクは巣から引きずり出され、ムチを巻かれたまま地面に叩きつけられた。
刀を手にしていたレイラが、即座に頭を切り落とす。間髪入れず、胸と腹も切断した。
ピクピクと痙攣するアリジゴクの体。しばらくすると動かなくなる。
タクトとガクはひしと抱き合いながら、事の顛末を見守るしかすべがなかった。
〈おまけ〉
ハンミョウって昆虫をご存知ですか?
青や赤などの色が斑紋になっていて、間近に見るととても美しい生き物です。
私の母の実家の福岡では、よく遊んでいた家の近くの広場にたくさん見ることができました。
キラキラして目立ちそうな感じなのですが、体が小さいので意外と分かりにくいです。
ただ、近づくとピャーッと低空飛行して数メートル先に逃げるので、すぐ分かりますね。
そして面白がって近づくと、また数メートル逃げる、の繰り返し。
このちょっとずつ逃げる習性から、「道教え」「道しるべ」という異名ができたそうです。
数メートルしか逃げないので、飛び立った時にささっと近寄って虫取り網をかぶせれば捕獲可能。
ときどき捕まえて虫かごに入れ、キラキラした模様を観察していました。
個人的にすごく好きな昆虫の1つです。
今はかなり数が減って、一部地域では絶滅危惧種に指定されているとか。
ありふれた昆虫だと思っていたのですけどね。
レイラの刀にある絵のイメージを描いてみましたが、下手すぎて笑えます。
鞘の絵は最初鮮やかな色がついていたようなのですが、だんだん薄れてしまい今ではほぼモノクロなのだそうですよ。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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