2人はおっかなびっくり、言われたままにする。アリはだんだん出てこなくなったが、最後の方でそれまでの倍近い個体が登場した。

「あ、これって」ガクが真っ先に見つける。

「女王様のお出ましだな」

レイラはそう言うと、さすがに直接手でつかむのが怖いのか、袋をかぶせるようにして捕獲した。

 

結局、3袋がアリでいっぱいになった。

「さてと、手分けして運ぼうか」

レイラは袋を2人それぞれに手渡しながら言う。

「えー?もっと軽いかと思ったら結構重いじゃん、これ」

「文句言うなよ、ガク。一番軽いのにしてやったんだから」

「レイラさん、オレのが多分一番重いです」

「体大きいんだから当たり前だろ?」

 

レイラは巣穴にも袋をかぶせ、針金で固定する。

「巣穴、これで大丈夫なんですか?」

タクトが心配そうにたずねた。

「まだ中に卵と幼虫とさなぎがいるかな。ま、あたいのスマホの位置情報で、しばらくしたら後続部隊が来るさ。もう、あたいらがすることはないよ」

そう言いながらスタスタと歩く。

 

「車まで行けばいいのかあ。でもけっこう歩くよね?」

ガクは緊張が解けてどっと疲れたらしい。袋を持つのもつらそうだ。

「さっきは回り道したらしいな。少しショートカットしよう。こっちだ」

レイラがスマートフォンで地図を確認し、左に曲がった。

 

整備された林道とは違い、少し細い獣道のようだった。だが少しでも歩く距離が減るなら異存はない。ガクもタクトも黙って付いていく。

行く時は大きなブナの木が目印になったが、帰りは先が読めない。たいした距離ではないが、だんだん疲れが増してくる。

「ねえレイ姉、もう少しゆっくり歩いてよ」

「莫迦なこと言うなよ、日が暮れるぞ」

レイラは一応振り向いたが歩みは止めない。だがその直後、大きくバランスを崩す。

木の葉の陰になっていてよく見えないが、足元に大きなくぼみがあったようだ。

「レイラさん!」

タクトはガクに袋を押し付け、一目散に駆け寄った。

「え?ええー。ボクこんなに持てないよ!」

ガクは諦め顔で袋をわきに置き、急いで後を追う。

 

「クソっ、油断した」

そこには大きなすり鉢状の穴がある。―どこかで見た形だな―と思うと同時にガクの顔から血の気が引いた。

「アリジゴク?」

人工変異種のアリをエサにしていたのだろう。姿はよく見えないが巣の大きさからして尋常ではない。

レイラはその巣に半ば落ちかけていた。

 

 

 

 

〈おまけ〉

女王アリって大きいらしいですけど、見かけることがほぼないですよね。

大きいということは知っていますが、どのくらい大きいのかよく理解していません。画像でたまに見るんですけどね。

でもちょうど1か月前、もしかしたらこれかも、というのを見かけたんですよ。

 

 

画像で大きさが伝わらないのが悔しいです。確か、体長2センチ弱くらいですかねえ。

娘と一緒に「これ女王アリかも?」と大騒ぎしました。

春は繁殖の時期なので、ちょうど結婚飛行が終わって新しい巣を作る場所を探していたのかもしれません。

飛行が終わると、羽を落としてしまうのですよ。

 

オスのアリも羽があり、女王アリと一緒に飛ぶそうなのですが、交尾が終わったら用済み。

あっさり死ぬらしいです。

小さい頃、母の実家の雨戸とガラス戸の間に羽のあるアリが時々たくさん出て、「これがオスアリなのね」と喜んでいたのですが。

今思えばあれはシロアリでした。おそろしや。

安心してください、その家はもう取り壊しております。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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