ジャニーズ問題が突きつけた企業統治の失敗
――長年の沈黙が不正を温存した
芸能事務所 ジャニーズ事務所 が設置した外部専門家チームの調査報告書は、故 ジャニー喜多川 元社長による性加害が、少なくとも1970年代から2010年代半ばまで長期間にわたって継続していたと認定した。
この報告書が示したのは、個人の犯罪というよりも、企業統治が機能しなかった結果として人権侵害が放置された現実である。
調査では、同族経営の弊害が強く指摘され、当時の社長であった 藤島ジュリー景子 氏が性加害の事実を認識していた可能性が高いとも指摘された。経営責任の観点からは辞任が相当とされ、企業としての監督機能が十分に働いていなかったことが明らかになった。
私は社労士として企業の内部問題に関わる中で、同じ構図を繰り返し見てきた。権力が一部に集中し、異論を許さない組織では、不正や人権侵害は長期間表面化しない。
内部統制が機能しない企業では、「知らなかった」という言葉が責任回避の常套句になる。しかし組織として問題を防止できなかった以上、経営責任は免れない。
今回の事件では、マスメディアの対応も大きな問題として指摘された。性加害の疑惑は長年週刊誌などで報じられており、2003年には名誉毀損訴訟の判決の中で事実関係が事実上認定されていた。それにもかかわらず、多くの報道機関が十分な報道を行わなかったことについて、報告書は極めて不自然な対応であったと指摘している。
強い影響力を持つ企業に対して批判が控えられる構造は、日本社会の弱点の一つである。
取引関係や利害関係が報道や監督機能を弱めるとき、不正は長期間温存される。
さらに国際機関の調査では、被害者は数百人に上る可能性があるとの見解も示された。もし事実であれば、日本の企業史の中でも例を見ない規模の人権侵害となる。
この事件が示した最大の教訓は明確である。
経営者の人格に依存する企業は必ず失敗する。
必要なのは、経営者の善意に頼らない仕組みである。
独立した取締役会、実効性のある内部通報制度、外部監査の機能――こうした基本的な企業統治が働いていれば、被害はここまで拡大しなかった可能性が高い。
ジャニーズ問題は芸能界の特殊な事件ではない。
むしろ日本の私企業に共通する統治の弱さを浮き彫りにした。
コンプライアンスとは違法行為を避けるための技術ではない。
企業が人権を尊重する存在であるための最低条件である。
この事件を例外として片づけるなら、同じ問題は必ず繰り返されるだろう。
企業統治の改革は、もはや避けて通れない課題になっている。
参照情報
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ジャニーズ事務所
「外部専門家による再発防止特別チームに関する調査結果」(2023年8月29日公表) -
NHK報道
外部専門家特別チーム会見(2023年8月29日) -
NHK広報局コメント
ジャニーズ特別チーム報告書について(2023年9月) -
国連人権理事会作業部会調査
被害者は数百人に上る可能性(2023年8月) -
東京高裁判決(2003年)
週刊誌報道に関する名誉毀損訴訟判決(ジャニー喜多川氏の性加害事実を事実上認定)