【解答例⑤】 申し立てることができるとする立場からの[スペシャル答案] <結論> イ 申し立てることができる 商工団体の立食パーティーで、次々と挨拶していく中、甲は初対面のBとも名刺交換し、ごく短時間の立ち話をしている。が、事件についての「協議」は受けたとしても、アドバイスはしておらず「賛助」はしていない。 また、その後の話はあくまで仮定の話であり、「そのようになったら、ご連絡させていただきますので、ぜひよろしくお願いいたします」と言うのも、話の流れから出た社交辞令レベルと評価するのが社会通念上相当といえる。よって、社労士法22条2項2号の受任禁止レベルの「信頼関係」に基づくものとは考えられないため。(248字) |
〔出題の趣旨〕
特定社労士甲は、地元の商工団体が主催する立食パーティーに参加した。甲は、初対面のA社代表取締役Bとも名刺を交換し、ごく短時間、立ち話をした。
B:「半年ほど前、当社は従業員を1人解雇したのです。」
甲:「元従業員の方が労働局にあっせんを申し立てた場合には、会社側の代理人として対応することができます。」
B:「もしそのようなことになったら、ご連絡させていただきますので、ぜひよろしくお願いします。」
その後しばらくして、甲は、知人の紹介で、Cから相談を受けた。Cの相談内容は、A社から不当に解雇されたので、労働局にあっせんを申し立てたいが、自分ひとりでは不安なので、代理人になってほしい、というものであった。
このような場合に、法律に照らし、甲は、Cの依頼に応じ、Cの代理人としてA社に対しあっせんを申し立てることができるかを問うもの。
本設例において、受任禁止が課されるほどの「信頼関係」が生じたといえるか、特定社会保険労務士としての職務の公正、品位等についての倫理に反するかの考察を問うもので、①結論と、②その結論に至る理由の双方の記載を求める出題である。
<北出博士のワンポイント解説>
受任禁止が課されるほどの「信頼関係」が生じたといえるか、依頼者の利益と自己の経済的利益が相反するか、特定社労士としての職務の公正、品位等についての倫理に反するかの考察を問うものである。
問題文の中にある根拠をできる限り見つけて、そこから各種の法的原理に結びつけて答を導き出す姿勢を貫いてほしい。
本問では、わざわざ、商工団体が主催する立食パーティーであること、次々と挨拶していく中で、甲は初対面のBとも名刺交換しごく短時間の立ち話をしたにすぎないことを浮かび上がらせている。偶然が作用した一連の流れの中の出来事に過ぎないのである。
この点を強調して、その後の話はあくまで仮定の話であり、「そのようになったら、ご連絡させていただきますので、ぜひよろしくお願いいたします」と言うのも、話の流れから出た社交辞令レベルと評価すれば、社労士法22条2項2号の受任禁止レベルの「信頼関係」に基づくものとは考えられないため、依頼を受けることができる結論に傾く。
他方で、話の流れから出た社交辞令的な会話であっても、損害賠償などA社とCに関わる話の内容について具体的な協議をしており、この時仮定したとおりに、実際に相手方であるCからあっせんの申し立ての依頼が来たわけである。
この点を強調して、その時の話が顕在化して、「そのようになったら、ご連絡させていただきますので、ぜひよろしくお願いいたします」と言う会話がなされていたことを重視すれば、事実認定とあてはめ仕方によっては、社労士法22条2項2号の受任禁止レベルの「信頼関係」に基づくものという結論を導くことも可能であろう。さらに、社労士法22条2項2号には該当しなくとも、公正な業務遂行という観点からは、社交辞令的な会話であっても倫理上相手方からの受任は許されないという構成もありうる。
そこで、依頼を受けることができるとする立場からの解答例(参考答案)を4通掲載し、依頼を受けることができないとする立場からの解答例(参考答案)を4通、合計8通の解答例を掲載することにした。
社労士法22条2項2号のほか、以下の条文が参考になる。
<社労士法>
(社会保険労務士の職責)
第1条の2 社会保険労務士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。
(信用失墜行為の禁止)
第16条 社会保険労務士は、社会保険労務士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。