素晴らしい！
痛みと恐怖が満ちているのに、心情にグッとくる。
もしも、芽が出ない漫画家と、殺人犯が出会ったら。
(C)2021映画「キャラクター」製作委員会
漫画家vsサイコパス殺人犯
いま、この映画に関するある事実を知って手が震えておりまして、興奮でパソコンをガタガタいわしてしまっているのですが、いったん落ち着きます。
あらすじからして、もう面白い。
漫画家を目指す青年は、猛烈に絵が上手い。
しかし、キャラクターに力が足りないと言われ、デビューを逃しまくり。
そんな折、殺人現場に遭遇する。
殺人犯の顔も見てしまった。
警察には内緒である。
自分だけが知る犯人を主人公に作品を描き、デビューして大成功。
ところがまもなく、漫画を模倣した殺人事件が発生する。
まったくないとは言い切れないシチュエーションである。
喉から手が出るほど欲しかった、キャラクター性という宝物。
それを手に入れた漫画家青年が陥る、恐怖のストーリーだ。
漫画家を目指す段階での、青年の焦燥や葛藤が実にリアル。
こんなにも絵が上手いのにチャンスを得られない。
漫画家のハードルの高さも実感できる。
リアルなのも当然、原案と脚本は長崎尚志なのだ。
そう、売れっ子漫画家・浦沢直樹作品のストーリー部分を担ってきた人なのだから！（大声すみません）
スタッフとキャスト
浦沢直樹の『MASTERキートン』『MONSTER』『二十世紀少年』など、大人気作を手掛けてきた長崎尚志は、本作でも本領発揮。殊に『MONSTER』好きにはたまらない展開である。血もドバー、人も死ぬ。そして漫画愛。
永井聡監督はファーストシーンからラストシーンまで、全シーンが端麗辛口。気が弱めな人は吐く勢いの凄惨な犯罪現場さえも、美しい。思い切りの良さが好きです（告白）。『帝一の國』や『恋は雨上がりのように』に続いてドハマりだ。
漫画の作画を担当したのは漫画家江野スミで、震える上手さ。
個人的にようやく、川村元気氏の企画にハマれて嬉しい！
青年役菅田将暉の追い込まれ方が素晴らしい。やっていることは強かなのに好感度がなければ成り立たないキャラを、大好演。
殺人犯役Fukaseが素晴らしい！ 大人気バンドSEKAI NO OWARIで歌う姿しか知らないババア（当方）には衝撃的な演技力！ このキャスティングをした村瀬健プロデューサーの慧眼がスゴい。
刑事役小栗旬は良いキャラすぎて、本当に漫画の登場人物のよう。
青年の妻役高畑充希が、また良い。
先ほど驚きすぎたと言いましたのは、辺見という男を演じた俳優が見事で、誰だろうと思っていたところ、アシタカこと松田洋治だった！と知ったからなのでした。
ぃやもう、全然違う！ ツイッターもフォローしていたのに知らなかった自分に放心。俳優の力を見せつけられる。謹んでアカデミー助演男優賞を差し上げたい。
漫画＋映画の底力
サスペンスで、スリラーで、ホラーで、サイコパス。
青年と殺人犯のやり取りにシビれる。
現実のシーンと、漫画上のシーンが交錯して煽られる緊迫感。
おかしいのは誰なのか。
シンプルなようでいて、だんだんと観る側の気持ちが揺さぶられるのも最高だ。
大人気マンガの裏側や、売れっ子作家のセレブぶり。
漫画という、実は地味な制作工程が華やかな印象で描かれる。
いっぽう、アウトロー側のプロフィールが効果的。
それぞれの部屋の家具調度や、インテリア設計も良い。
長崎尚志流の人物像の広げ方が、心を抉ってくる。
根底にあるのは、実は優しさかと思う。
これほどのエグい殺人映画に救いがあるのは、そこがしっかりとしているからだ。
人の欲と、自我の発露。
最近、話題の事件に通じるところもある。
私事でたいへん恐縮ながら、作家廃業者の当方には尚更にヒリヒリくる現実味だ。
ラストカットも素敵。
と、諸手を挙げてベタ褒め。
世界に誇る漫画と、邦画という文化。
日本の映画は面白くないなどと仰る方々は、いったい何を観ているんでしょう…と、本作を一刺しお見舞いしたい気持ちです。
2021年製作／125分／PG12／日本
配給：東宝
監督：永井聡、原案：長崎尚志、脚本：長崎尚志、川原杏奈、永井聡、プロデュース：村瀬健、企画：川村元気、劇中漫画：江野スミ、古谷兎丸、撮影：近藤哲也、照明：溝口知、美術：杉本亮、衣装：松川好伸、VFXスーパーバイザー：須藤公平、主題歌：ACAね（ずっと真夜中でいいのに。）×Rin音 prod by Yaffle、出演：菅田将暉、Fukase、高畑充希、中村獅童、小栗旬、中尾明慶、松田洋治、宮崎吐夢、岡部たかし、橋爪淳、小島聖、見上愛、テイ龍進、小木茂光
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