草彅剛という名優。
その彼が成し遂げた、新たな挑戦。
トランスジェンダーの女性を描いて、圧巻の芝居だ。
(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
虐げられる2人の『女性』が出会った
重要なのは、女性そのものを演じているのではないということだ。
草彅剛(草なぎ剛)が演じたのは、男性に生まれてしまった、女の心を持つ人物。
男の入れ物に入った、女という性である。
いわゆる「オカマ」と軽く扱われてしまう人々の中の、一人。
夜の仕事に生きる、名は凪沙(なぎさ)だ。
立ち姿や、横顔の線の細さが美しい。
ハイヒールの足元は、いつも急ぎ過ぎで不安を増幅する。
長い髪を無造作に扱い、低い声には哀愁と色気が漂った。
そんな凪沙の元に、母親に虐待されている親戚の少女が預けられる。
名前は、一果(いちか)だ。
そこから、2人の人生が方向を変えるのである。
簡単ではない道のりが、始まる。
キャストとスタッフ
草彅剛は本作で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞を獲得した。元SMAPなのに、である。ジャニーズ事務所を退所して、半ば干されてしまっていたのに、である。なんと、めでたいんだ!
少女を演じるのは、服部樹咲。蒼井優以来のバレエ女優の登場。オーディションで選ばれた逸材。4歳からスタートして各賞を受賞したというクラッシックバレエが素晴らしく、芝居も才能が爆発。
凪沙の同僚役、田中俊介が光る。
田口トモロヲのママ役がハマり過ぎ。
真飛聖はドラマ『その女、ジルバ』でも温かかったが、本作のバレエ先生役は流石!
水川あさみのダメ母親ぶりが最高で、改めてジャニーズとの相性の良さを実感。
一果の友人役、上野鈴華がまたスゴイ。元アイドル(ベリーズ)大西浩美の娘さんとのこと。今後にも大期待。
渋谷慶一郎のピアノソロがとても印象的。
内田英治監督はブラジル・リオデジャネイロ出身で『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のAD出身とは、意表を突かれまくった。Netflixドラマ『全裸監督』に続いて、生々しくも儚い描写が魅力的だ。
ラストに込められた思いとは
物語の重心は、ポスターにもあるように「母親」というテーマ。
トランスジェンダーが遭遇するであろう現実が描かれる。
好奇の目がいかに人を傷つけるか。
明るいステージで踊るバレエダンサーと、ショーパブで踊るトランスジェンダー。
その対比が実に雄弁だ。
ただ、気掛かりであったのはラストにかけての流れであった。
あの終わり方は、果たしてどうなのか。
ここから、ネタバレして考察してみます。未見の方はお気をつけ下さいませ!
↓ネタバレあります!
↓ネタバレしております!
日本では現在、性別適合手術は保険適用となっている。
それでも自費診療の割合も大きく、手術可能な病院もまだ少ない。
なので、タイでの手術は特別なことではないだろう。
ただ、手術を受けた凪沙は、アフターケアが悪かったせいで瀕死となる。
本作の舞台は現代である。
今、果たして、手術後のケアを怠って生命の危険が及ぶことがあるのだろうか。
と、疑問だったのだが、医師によると現実的には考えにくい状況であるらしい。(→Wikipedia「トランスジェンダー描写に対する批判と見解」参照)
映画として効果的な筋立てだが、手術に対して誤解を生む可能性もある。
この展開は、同様の悲運に見舞われる『リリーのすべて』の影響も感じさせた。
なぜ、本作の主人公も去る必要があったのか。
私見ながら、そこに主演・草彅剛の人生がダブった。
SMAPが崩壊させられ、歌い踊るステージを失った。
それは長年、SMAPの敏腕マネージャーとして彼らを育て、国民的アイドルを作り上げた飯島三智プロデューサーも同様だったろう。
無念だったに違いない。
外野が軽率に申しまして恐縮ながら、一度、命を失ったも同然だったのではないか。
けれど、新たなステージで想いや舞台は続いていく。
そんな暗喩も感じ取れて、ああ、そうか、と、思い至った。
「新しい地図」という新事務所の名称も、多くを物語る。
個人的に、悲劇的な映画を作るためだけの死の扱いは好きではないのですけれども。
たぶん、本作はそうではない。
これは再生の物語でもあるのだろう。
そう思うと、ラストシーンの輝きが一層、眩しく見えるではないか。
スクリーン
※情報に誤りがございましたらご一報いただけますと幸いです。
2020年/124分/日本
監督・脚本:内田英治、エグゼクティブプロデューサー:飯島三智、音楽:渋谷慶一郎、出演キャスト:草彅剛、服部樹咲、上野鈴華、田中俊介、佐藤江梨子、根岸李衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
☆草彅剛出演作・関連記事
↓面白かったらクリック☆ありがとうです
↓面白かったらこちらもクリック☆感謝です
色んな映画を観ています↓ブログ内の記事索引です。