実録度の高さ
ポスターや予告編のコピー惹句で、印象は低めであった。
またアメリカ礼賛か、と。
戦争の言い訳で肯定か、と。
ところが蓋を開けてみたら、印象が大きく違った。
今作で描かれるのは、異文化コミュニケーションである。
実戦経験ゼロの大尉が、現地で協力を仰ぎ、戦闘指揮を取る苦労話。
近年のアメリカによる戦争の現場も見えて、興味深い。
9・11でアメリカが地上戦を巻き起こされ、その報復に始めた対テロ戦争。
テロ組織のアフガニスタン拠点壊滅を目指し、送り込まれたのは、たった12名の兵隊。
彼らが交渉や足や馬を使って、戦いの道筋を作る。
実録の映画化で、戦争は人力なのだと実感だ。
とかく、我々は最近の戦争は楽そうだと思いがちだ。
すみません、当方(阿呆)はそんなふうに思っていました。
空爆でしょ、と。
空からズドンでしょ、と。
そりゃ痛みも損失も少ないよね、と。
違った。
ストーリーに支障はないかと思いますので、少し書いてしまいますが…
(知りたくない!という方は、次の見出しまで飛ばしてくださいませ)
少なくとも当時、空爆を誘導するのは、今作の描写によれば、人間である。
現地に出向き、爆撃の座標を指定する。
なんということか!
戦闘シーンのド迫力
砂漠地帯で繰り広げられる地上戦は、大迫力。
圧倒される。
馬が駆け、人が撃つ。
流れるようなカメラワークで、スピード感が相当。
爆薬量も多く、劇場内に火薬の匂いも充満しそうだ。
これは、凄い。
大戦を描いているのではないので、人と人との会話の先に戦闘が生まれる。
だから、戦争は人が死ぬのだという当たり前の重みが、ある。
アメリカのエンターテイメントを観続けている方はお気づきかもしれないのですけれども。
最近また、様相が変わって来た。
9・11以降、チームで戦う映画が増えた。
そして今、敵にも事情があるのよね、という映画が増えてきた。
勧善懲悪ではなくなっている。
今作もまた、同じ。
イスラム教国家アフガニスタンは部族で構成される、多民族国家。
現地の光景は、『アラビアのロレンス』も思い出した。
郷に入りては郷に従え、だ。
エンタメ仕立て音楽問題
というように、戦争映画として、とても良い。
が、いかんせん、音楽が鳴りっぱなし。
エンタメ映画の騎士、『パイレーツ・オブ・カリビアン』を作ったジェリー・ブラッカイマー製作だからだろう。
見事な戦闘シーンでも、音楽。
ナイスなセリフにもかぶせて、音楽。
爆撃音をもっと聞かせて下さいと懇願しても、音楽。あ、懇願するのは当方です。
オカゲでとても観やすいのだ。
戦争映画が観やすくていいのか問題である。
クリス・ヘムズワースは賢い大尉に見えないので、親近感。
妻役は、実生活の妻、エルサ・パター。
メキシコ枠として、マイケル・ペーニャがいる。
マイケル・シャノンが頼りなさげでいい! 『シェイプ・オブ・ウォーター』とも違う魅力だ。
現地の将軍役、ナビド・ネガーバンが良いのだ。
…って、この人、『彼女が目覚めるその日まで』のインド人医師! 確かな力量!
共同脚本のテッド・タリーは『羊たちの沈黙』でアカデミー賞脚色賞を受賞した、あの方!
今作でも一筋縄な印象ではないのは、さすが。
ニコライ・フルシー監督はデンマークのCM業界出身で、コソボ紛争を取材した報道写真家。
異業種も経験した監督としては『ザ・シークレットマン』のピーター・ランデズマン監督のよう。
実録を扱い、初監督作とは思えない硬派な映像。テーマ性も深い。
エンドロールはおそらく、製作の意図が大いに入ったのではないか。
少々、念押しになった気が。
惜しい。
と、戦場を知らない素人が言ってます。
スクリーン(TOHOフリーパスポート)
12 Strong
2018年・アメリカ
監督:ニコライ・フルシー
脚本:テッド・タリー、ピーター・クレイグ
原作:ダグ・スタントン
製作総指揮:ダグ・スタントン 他
製作:ジェリー・ブラッカイマー 他
音楽:ローン・バルフェ
出演キャスト:クリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、マイケル・ペーニャ、ナビド・ネガーバン、トレバンテ・ローズ、ジェフ・スタルツ、サッド・ラッキンビル、ロブ・リグル、ウィリアム・フィクトナー、エルザ・パタキー
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