初対面は5年前だった。
背筋ピンと立ち、なんでも「ハイッハイッ」と元気良い。
機転も利き、滅多なことで拳を振り上げない忍耐力もある。
…ように見えていた。
「直立不動」は、「わけあり」の男が入れ替わり立ち替わる僕の職場にあっては日常的な光景で、男なんつのはスネにキズが当たり前でコッチも深く追求しないマナー。つか知ったこっちゃない。
その中でも今回出会ったWは、「本当に懲りていて」、再犯しない利口な人間に見えた。
僕はWを高く評価し、彼ばっかをコンビに指名していた。
「勘」が働き仕事も良くできたWは皆に重宝されていたんだが、2月過ぎた頃、「やってらんない」と言って辞めてしまった。
もともと広域暴力団に属していた彼からしたら、僕らの職場はトロくさかったんだろう。
「俺らは善人でもないが、だからって悪人にもなりきれない」
「負い目とか良心とかが邪魔になる人間は偉くなれない、戻るな」
とは言ったが無駄だった。自分の資質を見誤り、夢を見ている。
それまで彼は寮に入っていたのだが、辞めるにあたってアーユレディ家に泊めてくれと。
僕は結構、偏屈な性格で、自分の家にいれる人間には制限をかけている。不潔な人間と礼に欠ける人間とは外交だけで招かない。
しかして彼は、どちらもクリアしていたから断る理由がない。
結局2ヶ月同居したが、アーユレディ家ルール、
1、煙草はベランダ
2、座りションベン
3、布団は畳め
を全て守ってくれた。
さすがム所出た人間は違うと感心してしまった、へんな話。
あと「事務所の泊まり込み」を経験していることも好評価。(子供の躾に悩んだら自衛隊か事務所へアクセス
)ただ組に戻るに当たって、ホームセンターからドデカいノミとカナヅチ買ってきて、
「これでやってくれ」
言った時は困った。
「いまどきな、カネにならん指なんかいらねーんだよ」
真剣な顔しやがって。
ともあれ、五体満足?で彼は事務所に復帰したわけだが、すぐさま地方に飛ばされ鳴かず飛ばず。
だから言ったろ。
人間には資質があって、「無い」ものには絶対になれない。最近、宮崎とかヘンなマンガが子供達にファンタジーを見させてるようだが、そのままオッサンオバサンになるなよ。不可能を認めない大人が闊歩する現代日本。
「ポニョ?」とかバカだろ。
昨年11月、Wが帰ってきた。
4年ぶりくらいか。
しばらくぶりに会うWは印象が違っていた。悪い意味で。
オートロックモニタに写る彼は、威風堂々とした図体なのに首から上がオドオドキョトキョト、ニワトリかいっ
再び居候させたんだが、もう前の彼ではなかった。
僕の職場は年末が繁忙期で家を空けることが多かった。週1、2で家に帰るんだが最初は焦った。
鍵を空けると、玄関には段ボールが高々と積まれ(20箱あった)、奥に進むにつれ煙草の臭いが充満、足元やそこらじゅうにガラクタ?が転がるなか、彼はイビキをかいていた。キッチンには汚れた食器、マメに魚を焼くのは良いが、グリルに水を敷くのを知らないんであって、焦げ付いて異臭を放っている。
「許さん
」横浜に移住するにあたってこのマンションを売りに出していることを彼にも伝えてある。そしてただでさえ人相悪く目立つんだから、他の住人にはそれこそ平身低頭でいろと。
実は職場に泊まり込んでるなか、管理人から電話があり「貴方の部屋から怒鳴り声が聞こえると苦情があった。とても大きい人が出入りしている。松ちゃんまたヘンな人いれてるでしょ」
彼を叩き起こし、
「なんだこの有様は
」「なんで自分の特異性を自覚しない?」
「事務所の規律忘れたか?」
「一緒に横浜行く気あるのか?」
職場も大切だが横浜だって大切なボクは、疲労困憊でも必ず家に帰るようにしたんだが、それからのすざまじいWのアーユレディ拒否っぷり。
朝起きて「おはよう」も言わない。ご飯も自分のぶんだけ買ってきて一人で食う。こっちが夜中に仕事終え、オリジン弁当を二人ぶん買って帰っても絶対に手をつけようとしない。むしろ、これみよがしに米を研ぎはじめ、目玉焼き作ったりする。アホか?いくら俺を拒絶してもその道具は俺のもの。
あからさまにガキみたいな態度をとる彼に落胆しながらも僕は、これに似たようなことを思い出していた。
Kという友人がいるのだが、音信が絶えたと思っていたら服役していたんだが、オツトメから解放された直後は「松ちゃん、なにか哲学的な本貸して」とか、やたら殊勝になっていて、哲学知らんが、大昔読んだ故・河合ハヤオさんの「心の処方箋」という本を渡した。その場で読み始めたKは、「あ…、い…、」とか,苦しそうにしたあと、読むの止めてしまった。
「文字からインスピレーション受けない人間の存在」
今のKは僕に対し「マツもム所くらい経験しろ」と、なっている

たしかに何年も閉じ込められていたら神経が真面目になり、食パンに出される銀紙に包まれたマーガリンの有り難みに涙できるだろう。
自分も「時計事件」でブタ箱14日間泊まったが、閉じ込められている格子の向こうから、居酒屋帰りと思われる学生達の楽しそうなハシャギ声とかけっこう凹んだ。「当たり前がどんなに幸せか」
こっちは同じ房の19歳のポン中と関節技ゴッコして退屈紛らわしてんだからな。冷たい床板。毛布二枚。寝静まった夜中に息苦しさを感じたら、目んたまひんむいた彼が乗っていた。翌朝聞けば、覚えてないんだって。
不起訴釈放となり、署の正門から歩を踏み出す時、右にしようか、左にしようか選べる自由に感動した。
そして「もう二度とバカな真似はしないように」と。
しかし再犯者は「どーせオラぁ前科モンだ、それがどーした」
すぐに開き直る。
プライドの垣根が低い。
出所した直後の殊勝さは1年も持たない。結局は暴力質に帰っていく。
これはね、「育ち」もあるだろうが、もっと根源的なもので、遺伝的にクリミナル資質というか、傾向?があるんだと俺は見ている。
彼は犯罪者だった自分を最終的に肯定し、以前の本質に戻っただけ。自分と出会った頃の真摯さは借り物だったんだ

よく人権派の弁護士どもは
「被告は心の底から反省している」
とか言うがな、反省したら被害者が生き返るのかい?それにな、その反省は期限付きなんだよ。「一生を悔い改める」なんかありゃしない、閉じ込められて凹んだから妙に反省してるだけ。慣れたらまたやるんだよ。快楽のため人を殺めた人間は死刑でいいんだよ。
「国家権力が人を殺してはならない」ってか?
なんで国家がやっちゃいけないのかね?へんなの。
人の命は平等ではなく、役に立つ順番から並んでいる。ボクなんかずっと下のほうでね、日本競馬界に多大な貢献をしたサラブレッドである故・サンデーサイレンスさんには到底及ばないのです。でもね、人を殺めていないぶん地球への存在を許されているのですよ。年金も滞りなく納めております。
世間の片隅で欲張りすぎず儲けすぎず、面白可笑しく漂っていようとしているくらいOKだろ。
一方のWは、自分の価値を過大評価する青春時代の貪欲さに逆行してしまった。現代の草食男子を馬鹿にしていた彼だが、お前も十分にスイーツだ。
僕は彼を追い出したが、えらく恨んでいて「裏切らた」とソコラに風潮しているが知ったこっちゃない。家賃も(発生しないが)光熱費も、タバコ代までくれてやってた人間に「テメ小僧」だからな。
横浜に絶対連れてかない。
扱い易い
から投稿08013557904