一石三鳥の公演 | 劇団 貴社の記者は汽車で帰社
木村です。「雨月物語の話がしたい!」にお越しくださいました皆様、誠にありがとうございました!皆様のおかげで公演当日はほどよい緊張感の中、とても楽しくお芝居することができました。

さて、客演の義之さんと同様、自分も今回が初舞台だったのですが、

『菊花の約』の里の者
『吉備津の釜』の仲人
『青頭巾』の快庵禅師

という三つの役を演じさせて頂きました。これまでは基本裏方中心の人生でしたので、演じることに関して右も左も分からない状態からのスタートでした。そのため、当初は初舞台で三つの役を演じることができるのか、とても不安でなりませんでしたが、稽古期間中にキシャの皆様の演技を参考にさせて頂いたり、根気強くアドバイスして頂く中で徐々に自信をもって演技できるようになっていったように思います。特に、動きに関しては「地蔵になってる」とか「なんか不自然(笑)」というコメントが出てくるような有様でしたが、皆様のおかげで公演当日までには無事に人間になれたようです(笑)その他、声の大きさや話す速度や強さなど、細やかに指導して頂きました。まずはこの場を借りて、お礼申し上げます。

最初は不安で仕方がなかった「一人三役」でしたが、それぞれの役の置かれている立場が想像できるようになると、だんだんと演じることができるようになっていったのかな、と思います。以下、それぞれの役を演じた感想など、書いていきたいと思います。

まず、『菊花の約』の里の者ですが、(自分の中では)とにかく左門のことを迷惑に思っているという設定で演じました。そう、彼こそが『菊花の約』最大の被害者に違いありません。たまたま泊めたお侍さんには熱を出されて部屋で寝込まれ、その上、それを見た左門は毎日足繁く(里の者の家に)通って手厚く面倒を見、昼も夜も語り合った……気が付いたら家を占領されているわけです。このことを想像した瞬間、真に迷惑そうなお芝居ができるようになりました(笑)

次に『吉備津の釜』の仲人ですが、自分にとって一番思い出深い役になったと感じています。というのも、初めの内は快庵との差別化ができておらず、「信頼できる仲人」になってしまっていました。しかし、正太郎と磯良を無理矢理くっつけた張本人ですから、胡散臭い悪徳業者で間違いない。稽古場で時間を割いて特訓してもらい、何とか胡散臭さを身につけることができました(特訓の成果が現れたのか、久しぶりに会った家族から「軽くなった?」と聞かれました)。皆様は胡散臭さを感じていただけたでしょうか?もし胡散臭く感じて頂けたなら、これ以上の喜びはありません。

最後の『青頭巾』の快庵禅師ですが、本番が近づくにつれて課題が増えていった役でした。今回演じた中で最も台詞が多い役だったというのもあるのですが、主と話しているときには明るい好青年、暴れ終わった住職に対しては徳が高く、威厳を持った存在として仕事をする……等々、場面に応じて話し方が変わることが多く、その切り替えには本当に苦労しました。しかし、本番には間に合ったようで、住職も書いていらっしゃいますが、住職との対比や照明の助けも借りて仏の領域にまで達せたようでほっとしています。

始めは不安ばかり感じていた初舞台でしたが、終わってみると一度の公演で三役を味わえるとってもお得な公演だったと思います(笑)

最後になりますが、素晴らしい演出を加えてくださったスタッフの方々、劇場で近い距離で雨月物語の空気を共有してくださった観客の皆様、心より感謝しております。また劇場でお会いできるのを楽しみにしております。

木村 公彦