暖かいって幸せ | 劇団 貴社の記者は汽車で帰社
伊勢三郎義盛役の高木哲朗です。

何とか無事『義経記』公演を終えることができました。
観劇してくれた方、スタッフさん達、役者の面々、それぞれに改めて御礼申し上げます。

今回で3回目の客演となりましたが、毎回それぞれキャストも違いスタッフも違い刺激的な日々を送らせていただきました。
そして、恐らく今までで一番良い雰囲気の中で、本当に好き勝手やらせて頂きました。
その事に関しては、謝罪と言うよりは感謝の気持ち、有難いという思いでいっぱいです。
舞台を支えてくれた方も観に来てくれた方も本当に暖かく、色々と助けをいただきました。



三郎という男は、感情を素直に表に出し、思い切りがあり、信念と男気に溢れる人物で、ともすると普段の僕とは遠い存在のようにも思えます。
彼は源義経という主に身も心も捧げ、時には義経の思いを代弁する役でもありました。
これほどまでに豪胆かつ忠誠心があり、情緒あふれる人物は現代はおろか歴史上にもどれほどいるであろうか。

物語の当時と私達が生きる現代とでは、多くの時間が流れて、生活、文化、その他様々な価値観が違ってきていることでしょう。
その中でも変わらずに人の心を揺さぶる何かを、三郎という人物に感じることが出来ます。
時代も年代も飛び越えて伝わる魅力。変わりゆくものと変わらないもの。
今の社会ってモノと情報が溢れ返って、本質的なものが見えにくくなっているけれど、そこにあるもの(内的な価値観とか)って実はそんなに変わって無いんじゃないかなって僕は思います。

それにしても、誰かに命を捧げるとか、今日明日の我が身も知れない日々とか想像してもしきれませんよね。
わりと今の世の中って、明日の自分とか近い将来のことって予想できるじゃないですか。(明日は何時から何時まで仕事だー、来週の何曜日はどこどこで飲み会だー、来月にはどこそこでOOの予定だ、みたいな。)
そしてそれは高確率で実行されて、されなかったとしても、少し違うかたちでも大体想像の範囲内に収まることが多いでしょう。
そりゃ今だって不意に自分の生活や命にかかわることが起こる場合だってありますでしょうけど、平安とか鎌倉の世と比べたら・・・ねぇ。。

組織も法も治安も生活水準も、今とは比べ物にならないくらい悪い中で、明日死ぬかもしれないって結構本気で思えちゃう世界で、その代わりにじゃあ何があったんだって、一言で言うとそれは「心」だったのかもしれませんね。ちょっとクサいかな。
昔の人って多分今よりもっと生きること自体に本気で、一日一日に必死で、その中で自分の命、自分の行動一つ一つに対する思いがより強かったのでは・・・
三郎をきっかけに思うことは沢山あります。





現代に生きる我々は、文明の発展の陰で代わりに何かを失っているのではないか。
獲得と喪失とは常に表裏一体で、その「失ってしまったもの」についてもっとよく考える必要があるのだ。


と暖房の効いた部屋でふと思慮に耽るのでした。(現代最高!)



とまぁ冗談はさておき、今回の公演では今まで以上に勉強になった事が沢山あります。
自分が役者を志して以来、舞台活動の度に一役者として色々と勉強させてもらってるんですが、
今回はちょっと違う、より「マクロ」な視点での発想、反省がありました。
そこには少ないながらの経験と年数などもあるのかもしれません。

人間って変えようと思っても変わらないことはたくさんあるし、気付いたら変わっちゃってたこともあるし、その中でも実は変わったところと変わらないところがあって大変です。
でも生物学的に言うと、人間は常に変わり続けています。
ただ人間の持つ機能によって身体的及び精神的な恒常性あるいは連続性が保たれ(るように錯覚し)、それによって変わらないように思われているだけなのです。

恐らく多くの人は変化を恐れます。現状が変わるのを嫌うと言ってもよいでしょう。僕も大方そうです。
しかしそれが人間の持つ機能によって起こることであり、実際的にはものごとはすべて変わりゆくものなんだ、それが自然なんだ、恐れる必要はない、と自分に言い聞かせれば、少しずつ慣れていきます。

そうすると今度は変わらないことの難しさに出会うことになります。
物事の規則化・固定化とその持続、それがどれだけ大変なことか。
よくテレビや新聞で創業何十年とか何十年変わらない味みたいな見出しがあったり、長年同じサイクルを続ける職人の姿を見かけることがあります。
しかし、それを続ける本人が年齢や体調などの内的要因が変化し、また法律や物資など様々な外的要因の変化の中で、如何に「変わらないこと」ができるのか。また変わらない必要があるのか。

そうやって考えていくと、ものごとの本質が時々顔をちらっと覗かせたりします。
何が変わって、何が変わらないのか。変わりゆく中でも変わらないものとは何なのか。様々な次元を行き来して思考を深く潜らせ、ものごとを見定めるのです。


ちょっと抽象的な話になってしまいましたが、本当に色々と学び、また新しいことに気付かされました。
言いたいことがうまくまとまって無くてすみません。


ただとにかく2月?から稽古を始めて早10ヶ月。あっという間に本番まで駆け抜けてしまいました。
その間に出会った多くの事柄に感謝し、その暖かみを忘れずに前に進みたいと思います。

ありがとうございました!