次のステージへ。 | 劇団 貴社の記者は汽車で帰社
「あ。 相澤君には藤原基経をやってもらう事に『決まった』から」

私の役者としての八ヶ月は、リーダーである千野のその言葉から始まりました。
今作までの3年間、裏方として出演者を支えてきた私には、まさしく寝耳に水な言葉でした。

なにせ、私にとって、演技をするなんて幼稚園以来。
しかし、当劇団の役者不足事情を知っているだけに断りきれず、
今回だけ、という条件で渋々承諾した私でした。

練習が始まると、予想した通り、慣れない演技は、辛い事ばかり。
発声訓練をくりかえしても一向に改善されない滑舌。
いくらトレーニングしても矯正されない姿勢。
自らのポテンシャルの低さに気付く時の苦しさ。
どれも厳しいものでした。
が、中でも、
『藤原基経』というキャラクターを理解し、演じる事の難しさは、筆舌に尽くし難いものでした。
なにせ、彼は『自信満々で天才肌。そして、日本史上有数の策略家』という、
演者の貧弱な性格とは180度異なるものだったからです。

また、前厄だったからでしょうか、私生活においても、この一年、辛い事ばかりありました。
命を断とうと思った事も、一度や二度ではありません。
ですが、そんな時に私を救い、本番まで引っ張ってくれたのは、
他ならぬ、自らの中にいる『藤原基経』だったのです。
辛い事があった時「こんな時、基経ならどうする?」そう考えるだけで、
自信と冷静さを取り戻すことが出来ました。

仲間達の存在も有り難い物でした。
彼等が根気よく私に演技指導を繰り返し、
時に和ませ、時に励ましながら、見守っていてくれたからこそ、
最後まで逃げずに頑張ることが出来たのだと思います。


そして本番当日。
当初あれだけ不安に満たされていたはずの私の心は、不思議と晴れ渡っておりました。
元来極度のあがり症だった私が緊張もせず、全くの平常心でいられたのは、
あの辛かった練習のおかげだったのでしょう。
流石に舞台にでた瞬間は、足が震えましたが、
それからは本当に楽しい時間でした。
失敗や反省点はありましたが、概ね納得のいく演技が出来たと思います。
「この仲間達との演技の時間が永遠に終わって欲しくない。」
そんな気持ちになれたなんて、私はきっと幸せ者ですよね。
今までのように、裏方だけをやっていたら、今のような気持ちにはならなかったと思います。

また、喜びはそれだけにとどまりません。
貴重な時間とお金を割いて見に来ていただいたお客様達から、
感想をいただく事が本当に嬉しいのです。
褒めていただければ、もちろん最高なのですが、
お叱りの言葉や、自分たちでは見つけることが出来なかった改善点を教えていただけると、
「ここを直して、次こそは、この人を納得させてみたい!」というやる気がわいてくるのです。


ここまで書いたように、私がかつて触れようとしなかった『演技』には、やりがいが満ちあふれていました。
もう、私は演劇の魅力から逃れることは出来ないでしょう。
ちゃっかり次公演への出演希望も出してしまいました。
最初の約束は撤回です(笑)



それから…
伊勢物語の余韻がまだまだ残る中、我々は早くも次に向かって動き出しました。
新しい役者も増えました。
しかも、なんと4人も!(男優の方、まだまだ募集中です!)

ちなみに、これによって、私の携帯に登録されている、貴社の記者は汽車で帰社関係者は30人を超えました。
学校の一クラス並みの人数です。
これだけの戦友がいる。とても心強い。
この仲間達と共に、お客様達により良い舞台を見せられるよう、邁進していきたいと思います。


では、最後になりましたが、
皆様、今回は年始のお忙しい中、当劇団の公演に足をお運びくださり、
誠にありがとうございました!

これからも何卒、応援の程、よろしくお願いいたします!


藤原基経役 相澤優多