前回の話の続き。

 

 

 

前の話はこちらからどうぞ。

12年前の君へ #01 高校2年生

12年前の君へ #02 ファーストコンタクト

12年前の君へ #03 入部決定

12年前の君へ #04 異変

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~#05 水曜日~~~~~~~~~

結局、それ以降渡辺さんを見かけることはなかった。

 

 

ずっと、隣の化学室で安静にしていたようで、

部活が終わる時間になっても、調子は戻らなかったようだ。

 

 

 
 
 
 
 
翌日、いつもと変わらぬ様子で
渡辺さんは部活に顔を出した。
 
 
 
 
 
 
部活動中に、何気ないタイミングで聞いてみた
「そういえば、昨日は調子悪かったらしいけど、大丈夫?」
 
 
 
「あ、はい。ちょっと調子を崩しちゃって、隣の部屋で休ませてもらってました」
 
 
 
「そうだったんだね。」
それ以上のことは、聞けなかった。
 
聞けなかったというより、周りに他の部員たちもいる中で
彼女が自ら話さない限り、詳しいことはこちらから聞かないでおこうと思った。
 
 
 
 
 
 
それから、数日間
普通の日々を送った。
 
 
 
 
 
 
 
4月第4週の水曜日 放課後
 
 
 
あれから、新1年生が何人か入部希望をしてくれた。
 
 
 
 
もう新1年生のほとんどが、入部先を決めている頃合いになる。
 
 
そのため、最近は部活動の勧誘も早めに切り上げて部室に戻っている。
 
 
今日もそんな一日だった。
 
 
 
 
 
部室に戻ると
3年生の先輩、新1年生たちが各々自由に過ごしていた。
新1年生も、ここの雰囲気に慣れてきてくれているようだった。
 
 
ここの部室は、普通の教室2個分ほどの広さがある。
 
 
部屋の前の方に、3年生が
真ん中の方に、1年生が集まって、
雑談したり、科目の課題をしたりして各々自由に過ごしていた。
 
 
 
勧誘から帰ってきた、私たち2年生は
自然と、部屋の後ろの方へと集まっていった。
 
 
 
部室の一番後ろには、本棚や引き出しがあり
今までの研究の冊子や、イベントに使う道具なんかをしまってある。
 
 
 
 
1人だけ、一番後ろの本棚の手前にいる1年生がいた。
 
 
 
 
渡辺さんだった。
 
 
 
新1年生の女子は、今のところ彼女だけだ。
 
 
 
 
私は、彼女の隣に行った。
 
 
彼女は、本棚の方を向きながら、立ちっぱなしで本を読んでいた。
読んでいたのは、研究の冊子だった。
 
 
 
「何読んでるの?」
そう声をかけると
 
 
 
「わっ! びっくりしました…」と彼女は驚いた様子だった。
 
 
 
「あぁ、驚かせちゃってごめんね」
私はよく、存在感が薄いと言われることがある。
クラスメイトや部員に声をかけて、同様に驚かれることがたまにある。
 
ただ、私としては驚かせるつもりはないので、『近づいたことに気付かなかったんかい』と思うことが多い。
 
 
この時も、私は内心そう思っていた。
 
 
「いえ、いいんです。私、こういう時集中しちゃって気付かないことが多いんです」
 
 
『私も読書中は集中するタイプだよなぁ』なんてことを思いながら
「そうなんだね。それは研究の冊子?」と聞いてみた。
 
 
 
「あ、そうです!」
 
 
「おぉ、偉いね~。ほかのみんなは遊んでるのに。何か気になった研究はあった?」
 
 
「いえ、まだ特に…とりあえず目を通してるだけです」
 
 
「そっか。何かあったらいつでも声かけてね」
 
 
「はい!ありがとうございます」
 
 
 
私は、彼女のもとを離れて
2年生の輪の中に入っていった。
 
 
 
2年生の男子も、トランプをして遊んでいたり、科目の課題をしていたりと
各々自由に過ごしていた。
 
 
 
1年生の女子は渡辺さんだけだし、少し輪に入りにくいのかな と、少し思った。
 
 
 
 
少し経った後
私がお手洗いから部室に戻ると
 
 
渡辺さんは、まだ本棚の前に立っていた。
おそらく、まだ冊子を読んでいるのだろう。
 
 
 
私は、無意識のうちに、その様子が気になった。
 
 
彼女の横へ行き、声をかけた。
 
 
 
 
 
 
 
彼女は、本を読んでいなかった。
 
 
私のかけた声は、ただ空に消えていった。
 
 
 
 
彼女は、ハンカチを口に当てて気持ち悪そうにしていた。
 
 
「渡辺さん!大丈夫?」
そう声をかけると
彼女は、目をぎゅっとつむったまま、微かにうなずいた。
 
 
 
 
私はすぐに、顧問の先生がいる理科準備室に向かった。
 
 
理科準備室は、部室のすぐ隣だ。
 
 
 
準備室に行くと、奈々先生に声をかけた。
 
 
「奈々先生!渡辺さんの具合が悪そうです!」
 
「分かった。すぐ行くね」
 
 
私のすぐ後を、奈々先生が付いてきてくれた。
 
 
 
 
奈々先生は、落ち着いた声で
「渡辺さん、大丈夫? 隣の部屋に行って休もうか」と声をかける。
 
 
彼女は、大きくゆっくりうなずいた。
 
 
渡辺さんは、奈々先生に肩を抱かれて、誘導されるようにして部室を後にした。
 
 
 
 
 
「え、どうしたの?」「大丈夫かな」「具合悪いんだって」などと
部室内は、少しざわついていた。
 
 
 
 
その後、奈々先生が部室からアルミマット(キャンプなど、テントで寝る際に床に敷くもの)を持って行った。
 
当部活は、天体観測もするのでキャンプ道具があるのだ。
 
 
 
 
 
しばらくした後、奈々先生が戻ってきて
「教えてくれてありがとう」と言ってくれた。
 
 
 
 
 
 
 
~~~~~~~~~続く~~~~~~~~~