中国政府外交部(中国外務省)は23日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する文章を発表した。同文章は12カ条に分けて、ウクライナを巡るさまざまな状況についての中国の“言い分”を紹介するものだ。
中国はこれまで、ウクライナ問題の大きな原因となったのは、かつての約束を破って「東進」を続けたNATO側にあると批判してきた。しかし23日に発表した文章に、NATOあるいは米国を名指しで批判した部分はなかった。一方で、ロシアについても名指しはしなかったが、核兵器の使用や核兵器による威嚇に反対すると明言した。また、原子力発電所への攻撃にも反対した。これらより、中国はいわゆる西側諸国のこれまでの行為を是認しているわけではないが、ロシア側に一方的に“肩入れ”する態度を示しているのではないと言える。
以下は、中国外務省が23日に発表した文章の全訳だ。
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【ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場】
一、各国の主権を尊重する。
国連憲章の趣旨と原則を含む公認された国際法は厳格に守られるべきであり、各国の主権、独立、領土保全は確実に保障されるべきである。国は大小、強弱、貧富を問わず一律に平等であり、各方面は共に国際関係の基本準則を守り、国際の公平と正義を守るべきだ。国際法は平等かつ統一的に適用されるべきであり、ダブルスタンダードを採用すべきではない。
二、冷戦思考を捨てる。
他国の安全保障に損害を与えることと引き換えに一国の安全を保障してはならない。地域の安全を軍事集団の強化ないし拡張によって保障してはならない。各国の合理的な安全保障上の利益と懸念はいずれも重視され、適切に解決されるべきである。複雑な問題に簡単な解決策はない。「共同・総合・協力・持続可能」を満たす安全観を堅持すべきである。世界の長期安定に着目し、均衡が取れ効果的で持続可能な欧州安全保障構造の構築を推進すべきである。他国の安全保障を踏み台にして自国の安全を構築することには反対すべきだ。陣営の対立の形成を防ぎ、ユーラシア大陸の平和と安定を共同で守るべきだ。
三、戦闘を停止する。
衝突と戦争に勝者はない。各当事者は理性と自制を保ち、火に油を注がず、矛盾を激化させず、ウクライナ危機がさらに悪化したり、甚だしきは制御不能になること回避し、ロシアとウクライナが互いに歩み寄ることを支持し、直接対話を可及的速やかに再開し、情勢のクールダウンと緩和を徐々に推し進め、最終的に全面的な停戦を達成すべきである。
四、和平交渉を開始する。
対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な出口である。危機の平和的解決に役立つあらゆる努力は奨励され、支持されるべきである。国際社会は仲裁と交渉促進という正しい方向を堅持し、紛争の各当事者ができるだけ早く危機の政治的解決の扉を開くことを助け、交渉再開のための条件を整え、プラットフォームを提供すべきだ。中国はこれらのために、建設的な役割を引き続き果たしていきたい。
五、人道上の危機を解決する。
人道危機の緩和に役立つすべての措置は奨励され、支持されるべきである。人道的行動は中立、公正の原則を守らなければならず、人道問題を政治化しないようにせねばならない。民間人の安全を確実に保護し、民間人が交戦区から避難するための人道回廊を構築せねばならない。関連地域への人道支援を拡大し、人道上の状況を改善し、迅速かつ安全、支障のない人道主義による参画を提供し、より大規模な人道危機の発生を防止せねばならない。紛争地域への人道支援において国連が調整の役割を果たすことを支持する。
六、民間人と捕虜を保護する。
紛争当事者は国際人道法を厳格に順守すべきである。民間人や民間施設への攻撃は避けるべきだ。女性や子どもなど紛争被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重すべきである。中国はロシアとウクライナの捕虜交換を支持してしている。各方面は実現のためにより多くの有益な条件をつくり出すべきだ。
七、原子力発電所の安全を守る。
原子力発電所など平和目的の核施設への武装攻撃に反対する。原子力安全条約などの国際法を順守し、人為的な原子力事故を断固として回避するよう各方面に呼びかける。IAEAが平和的な核施設の安全・安全保障を促進するために建設的な役割を果たすことを支持する。
八、戦略的リスクを減らす。
核兵器は使ってはならない。核戦争を起こしてはならない。核兵器の使用又は使用の威嚇には反対すべきである。核の拡散を防ぎ、核の危機を回避べきだ。いかなる国であれ、いかなる状況下であれ、生物化学兵器を開発、使用することに反対する。
九、食糧の海外輸送を保障する。
各国はロシア、トルコ、ウクライナと国連が締結した黒海食糧輸送協定をバランスよく、全面的かつ効果的に実行すべきであり、国連がそのために重要な役割を果たすことを支持すべきだ。中国は国際食糧安全保障協力イニシアチブを提出することで、世界の食糧危機を解決するために実行可能な方策を提供した。
十、一方的制裁を停止する。
一方的な制裁や圧力を極限までかけることでは、問題を解決できないばかりか、新たな問題を作り出してしまう。国連安保理の許可を得ていないいかなる独自制裁にも反対する。関係国は他国に対する一方的な制裁と「(自国が定めたルールや方針を自国外にも適用する)ロングアーム」の乱用をやめ、ウクライナ危機が沈静化するために役割を果たし、発展途上国の経済発展と民生改善のための条件を整えるべきだ。
十一、産業チェーン・サプライチェーンの安定を確保する。
各国は現有の世界経済システムを確実に守り、世界経済を政治化、道具化、武器化することに反対せねばならない。危機の影響波及共に緩和し、国際エネルギー、金融、食糧貿易、運輸などの協力が妨害を受け、世界経済の回復を損なうことを防がねばならない。
十二、戦後復興の推進。
国際社会は紛争地の戦後復興を支援するための措置を講じるべきである。中国はこのために協力を提供し、建設的な役割を果たしていきたい。(以上)
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写真は中国外交部建物