雑記:中国は「統治方式の輸出」を戦略としているのでは…習近平報告の全訳<中間報告> | 如月隼人のブログ

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昨日もお伝えした通り、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が18日に始まった同党の第19回全国代表大会(党大会)で発表した、前回党大会からの5年と、今後の共産党の方向性を示した「報告」の全訳に取り組んでいます。

なにしろ、3万文字以上の分量です。現在は5500文字ぐらいまで進めた。どうやら、党大会の終了前に翻訳作業が終わらないという、みっともないことになります。

全部終了するのが相当に遅れるので、今回は中間報告です。前の方にある5年間の実績振り返りの部分についてです。党と国の抱える問題点を指摘した部分もありますが、ほとんどは功績に対する「自画自賛」です。「いけしゃあしゃあと」と言いたくもなりますが、それだけで中国共産党を批判するのは不公平なような気がする。

考えてみれば、日本を含めて世界中の政党とはそういうものだ。政党だけじゃない。政府だって企業だて、そういうもんです。

それはさておき、とても気になったことがありました。まず現状分析として、「中国の特色ある社会主義」を強調し、「新たな時代に入った」ことも強調しています。その上で、中国が現代化を進めている道筋は、「世界に存在する、発展の加速を希望するまたは自己の独立性を維持したいとする国家と民族に全く新しい選択を与え、人類の問題を解決するために中国の知恵と中国の方策で貢献する」と論じているのです。

同じ主張はこれまでにも語られていましたが、改めて接して「はてな?」と思いました。中国は外交の「建前上の大原則」を転換したのではないか。

中国外交の大原則のひとつに「内政不干渉」があります。中国が他国との関係構築で常に主張する「平和五原則」のひとつで、本来は冷戦期において、体制が異なる西側諸国との国交樹立に適用し「社会主義の中国も、資本主義と体制の異なる国と平和的関係を持つことができる」との主張の理論的裏付けにいしました。

改革開放で経済建設が最優先されると、人権問題などで西側諸国との対立する資源国との関係構築の理由としました。リビアやイランと言った西側諸国から「問題国」とされる国との関係を緊密にして、石油などを大量に輸入したわけです。

逆に、米国や国外の人権関連団体が中国における人権問題を批判すると「内政干渉は認めない」と反論する理由にも使いました。

さて、「習近平報告」の上記部分ですが、押し付けがましさは用心して取り除いていますが、中国は発展途上国などが、「中国式の統治方式」を取り入れることを望んでいるのではなかろうか。「中国式の統治方式」とは「政権党が絶対の力を握り、異論を許さない。国民に対しては経済を中心とする恩恵を与え、不満を抑え込む」というやり方と考えればよいと思います。

「自己の独立性を維持したいとする国家と民族」と書いている部分からは、人権問題なんかですでに西側諸国から批判されている国を念頭に「うろたえる必要はないよ。正面切って堂々と、『中国方式を採用』と主張すればよい」と、懐に引き込もうとしているようにも読めます。

社会主義国として残っているのは中国以外には北朝鮮、ベトナム、ラオス、キューバぐらいです。中国にとってもこのような状況は心細いのではないかな。西側諸国からは何かと批判される。国内でも「こんな国は世界でもほとんどない」との声も出てくる。

別に社会主義を標榜しなくても、「一党独裁体制だが経済は発展しており、統治方式に反対する声はそれほど大きくない」といった国が多くなれば、中国にとって有利です。発展途上国の場合、憲法などで定められている国の体制と実情に格差がある場合も多いので、「中国式の統治方式」の事実上の採用は、それほど困難でない国も多いのではないだろうか。

中国がまずガッチリ取り込もうとする国は、カンボジアやラオスかな。ちょっと遠いけど、キューバとも友好関係を強調している。中央アジアにも対象国がありそうだ。そういう国を作って、中国の体制、あるいは中国共産党の実績を称賛させる。緊密な関係を構築する。「中国式統治・発展モデル」を導入させ「発展途上国には有効」との国際的世論を盛り上げる。

考えてみれば「一帯一路」もそうだ。経済面だけでなく、政治的にも「影響力強化」を狙っていると見られていますが、単なる関係構築ではなく、統治方式あるいは体制面で、多くの国に中国式の統治方式を導入・定着させてしまうことまでを戦略として定めているのではないか。と、そう思ったわけです。

中国は、すでに独裁体制を強化している国との関係強化もしていますね。ロシアなんかそうです。もっとも、ロシアの場合にはプーチン大統領の個人的な力に頼っていて、党の支配ではない点が違いますけど。あ、今の習近平体制とは、「個人に対する権力集中」という点で同じか。

中国は、米国を対決相手として定めています。といってもガチでぶつかるのではなく、互いに利益を得つつ、将来的には自国が米国に十分に対抗できる「世界二大強国」になるシナリオです。そのためには、自国と似たような体制の国の多い方がずっと有利。そういう世界地図の構築が、すでに念頭にあるのではないか。そう思ったわけであります。

もっとも、中国がそのような世界戦略を描いていたとしても、かなり大規模な「バラマキ外交」が必要になります。中国自身が良好な経済状態を保つことが前提になりますし、国策に応じて海外進出した中国企業が「えげつない金儲け」に奔走して、共産党の思惑をぶっ潰すこともあるでしょうから、「中国式統治方式の輸出」がそう順調に進むとも思えませんが。
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前には、台湾の蔡英文総統の就任演説も全訳しました。この時も、かなり大変だった。今回も、以前から全訳しようとは思っていましたが、膨大な量の文章に実際に触れて、腰が引けてしまった。

木曜日から土曜日昼頃まで躊躇していたのは失敗でした。遅ればせながら、ひいひい言いながら(実際には言っていませんが)、作業を進めております。


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