このブログを、わりとこまめに書くようになってから、留学時代のことをずいぶん、思い出すようになりました。ずいぶん古い話ですので、「今、発表するのもどうかな?」と考えてしまうことも多いのですが、「こんなこともあった」ということで、書きつらねます。自分自身が体験したことを、忘れないうちに、記録しておこうという考えもある。
地方都市に旅行しました。中国のことを理解しようと思ったら、いわゆる名所旧跡だけでなく、その時点でにぎわっている商業施設なんかに、足を運ぶことも有効です。都市、あるいは地域によって、雰囲気がずいぶん違うこともある。
私は、その街で一番大きいデパートに足を運んだ。全国どこでも売っているものだけではなく、その都市ならではの発見もある。それはそれとして、当時は音楽の記録なんかでのMDなんかが普及する前のことで、カセットテープが主流した。中国でもいろんな音源をダビングして楽しむ人が多かった。録音用カセットテープで、一番信頼があったのは、日本のソニー製でした。
そのデパートでも、ソニーのカセットテープを売っていた。ガラスケースの中や上に並べて、売っていた。ところが、ガラスケースとガラスケースの間の通路を隔てた反対側でもソニー製のカセットテープを売っていて、値段が半分以下。
「なんで、そうなるの」と思い、店員さんに聞いて見たら「あちらは、本物のソニー製のカセットテープ。こっちのは、偽物」と、あっけらかん。興味を持って、両方を買って、後で確認した。「なるほど」でした。肉眼で見ても、工作精度が、まったく違いました。
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それはさておき、そのデパートの中でうろちょろしていたら、若いお嬢さん数人が、なにか立ち往生しているのを見かけた。言葉が通じなくて、困っているらしい。興味をもって、さらに近寄って見ると、日本人のお嬢様方でした。
まあ、こちらは中国に滞在していたし、買い物程度で困ることはない。ということで、一番近くにいたお嬢様に「どうしました? 困ったことがあったら、お手伝いしましょうか」と、声をかけた。
その時の、お嬢様の表情がすごかった。いきなり、恐怖にひきつった顔。2歩、3歩と後ずさりして、お仲間のお嬢様の間に入った。
例によって、私は鈍感です。続けて「よかったら、通訳しましょうか」なんて、言った。そしたら、お嬢様数名全体が「ぞぞぞっ」と、後にしりぞく。全員が、恐怖感に満ちた表情。
さすがに、私も気づいた。「これは、警戒されている」――。
中国にかぎらず、どの国でも、外国人をカモにしようと思っている悪者は多いですからね。そういう不埒な奴に限って、たとえば相手が日本人だったら日本語を使ったり、あるいは日本人が理解しやすいであろうと思われる英語を使ったりする。
お嬢さん方は、慣れぬ中国の地方都市で言葉が通じず困っていたところ、いきなり見知らぬ男から「お助けしましょうか」なんて言われた。
その当時の私の服装は、完全に現地化していた。というよりか、中国人の友人から「中国と言うのは、見てくれ社会だ。偉そうな格好をしていた方が、なにかと有利だぞ」と忠告されるぐらい、ひどかった。
ということで、日本人のお嬢様からは、完全に「中国の危ない犯罪者」と思われたみたいです。
その場で潔白を示したい気持ちも強かったのですが、あきらめました。自分について説明すればするほど、疑われるに違いにあ。「きゃー!」なんて悲鳴が出てしまっては、周囲の中国人に「こいつ、犯罪者ある」なんて思われ、取り押さえられかねない。
同胞のお嬢様方から疑われて、もちろん、愉快な心持ちではありません。でも、まあ、「そのぐらい警戒した方が無難ですな。これでよいのだ」と思いなおしその場を立ち去ったのでありました。
ということで、「私は善意で声をかけたのに、なぜか理解してもらえない。しょうがないなあ。じゃあ、コンタクトは諦めるか」という、中国人風の表情を演出して、その場をななれた。
ううむ。思い出をそのまま書いたのだけど、ちょっとカッコよすぎるぞ。正直に告白します。そのお嬢様方をお助けして、「できれば、ちょいと仲良くなりないなあ」程度の“下心”があったことは、否定できません。